会社が「希望退職募集」をはじめたんだけど、どんな制度なの?
「早期退職」や「退職勧奨」とは違うの?
どんなメリットがあるの?
ニュースで聞いたことはあるけれど、実際にどんな制度で、なぜ行うのかわかりづらい「希望退職募集制度」。
そこでこの記事では、「希望退職募集制度」の基本情報から、早期退職や退職勧奨との違い、制度に応募するメリットやデメリットなどを解説していきます。
「会社が”希望退職募集”を始めたけれど、どうしよう…」というときは、ぜひご覧ください。
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・記事「退職ルールまとめ」
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・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
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希望退職募集制度とは?なぜ行う?
「希望退職募集制度」とは、「自分の意志で退職を申し込む社員」を会社が募集する制度です。
たんに「希望退職」や「希望退職募集」とよばれることもあります。
「短期間で大幅な人員削減を行う」ための手段としては、最も代表的な制度。
法律上、「希望退職募集制度」を実施するための条件などはなく、やり方はすべて会社が決めることができます。
そして多くの会社では、次項で解説する「整理解雇(リストラ)」の前段階として「希望退職募集制度」が実施されます。
なぜ行う?整理解雇(リストラ)の「解雇回避努力義務」のため
「整理解雇」とは、次のように3種類ある解雇のひとつで、いわゆる「リストラ」といわれる手段です。
上記のとおり、「整理解雇」がほかの2つと違うのは「会社側の都合で行う」ということ。
ですが、会社の好きなときに「解雇」を行われては、社員はたまりません。
そこで「整理解雇」を行うには、次の4つの要件すべてを満たしている(実施している)ことが必要です。
この「要件2.解雇回避努力義務」の代表的なものが「希望退職募集」です。
過去の裁判で「希望退職募集を行っていないため、整理解雇を無効とする」といった判断が示されたため、実質的に「整理解雇」を行うためには、まず「希望退職募集」を実施するのが一般的となりました。
さらに「希望退職募集」が「要件2.解雇回避努力義務」として認められるためには、後述する「退職金割増などの優遇措置」や「十分な募集期間」が必要です。
希望退職募集制度と早期退職・退職勧奨の違いとは?
次に、希望退職募集制度と早期退職や退職勧奨の違いをご紹介します。
希望退職と早期退職(早期退職優遇制度)の違いとは?
希望退職と早期退職(「早期退職優遇制度」とも)の違いとは、次のとおりです。
つまり希望退職は、「希望退職で退職する」か、「整理解雇されるか」を前提としているため、社員にとっては差し迫った状況といえます。
ちなみに早期退職と希望退職のどちらも、「募集人員や募集対象者、退職日などを決めて一定の期間で退職者を募る」という点では同一の制度です。
希望退職と退職勧奨の違いとは?
「退職勧奨」とは、会社が上司に対して「自主的に退職すること」を勧める行為です。
そして希望退職と退職勧奨の違いとは、以下のようになります。
「退職したくない社員」にすれば、「希望退職」なら応募しなければいいだけです。
しかし「退職勧奨」では何らかの返事をしなければならず、また「選ばれたことでショックを受ける」という違いも。
そして会社の経営が悪化した場合、次のようなステップで「整理解雇(リストラ)」を行うケースが多くあります。
- ステップ1:希望退職募集
- ステップ2:退職勧奨
- ステップ3:整理解雇(リストラ)
◆「退職勧奨について、よりくわしく知りたい」という方には、こちらの記事がおすすめです。
希望退職募集制度の流れ
希望退職募集制度の流れは、一般的には次のようになります。
このとき実施期間が短いと、「要件2.解雇回避努力義務」として認められません。
優秀な社員は、応募しても承諾されないことも
会社としては、一度体制をスリムにして、改めて出直すつもりで「希望退職募集」を行います。
ですがそこで「優秀な社員」が退職して、「そうでない社員」ばかりが残ってしまっては、会社が出直すことは困難です。
そのため多くの会社では、「希望退職募集」の対象者を「会社が承諾した者」とします。
優秀な社員が応募した場合は、会社が承諾しません。
もし「それでも退職する」となれば、会社は承諾していないため、「割増退職金などの優遇措置ナシ」の、通常の自己都合退職となってしまいます。
希望退職募集制度での「退職金割増」などの優遇措置
希望退職募集制度では、退職者に以下のような優遇措置がとられます。
- 退職金の割り増し
- 退職前に有給休暇の実施期間を与える
- 未消化となる有給休暇の買い上げ
- 再就職先の支援 など
このような措置の内容については、あくまで会社の状況によるため、実施内容もまちまちです。
裁判所でも、具体的な内容までは判断していません。
ただし「社員が、自ら退職を希望するほどの魅力をそなえたもの」でなければ、その「希望退職募集」が「要件2.解雇回避努力義務」として認められません。
希望退職募集制度に応募するメリットとデメリット
次に、希望退職募集制度に応募するメリットとデメリットをご紹介します。
希望退職募集制度に応募するメリット
まず、希望退職募集制度に応募するメリットは次のとおりです。
[希望退職のメリット①]「退職金割増」などの優遇措置を受けることができる
退職金割増などの「優遇措置」が最も大きいメリットです。
大手企業では1,000万円以上。
2017年に実施した三越伊勢丹HDでは、なんと最大5,000万円の退職金上乗せが話題になりました。
もともと退職を検討していた方なら、これが絶好の転職チャンスになりますね。
[希望退職のメリット②]経営状況が危うい(可能性が高い)会社から離れることができる
「希望退職募集」は、多くの場合「整理解雇」の前段階として実施されます。
つまりは、会社の経営状況が危うい可能性が高いということ。
「整理解雇」を実施後は人手が減る分、デキる社員に仕事も集中し、職場の雰囲気も悪くなると聞きます。
このような会社からは、早めに離れておくことをおすすめします。
[希望退職のメリット③]転職の面接で離職理由を説明しやすい
次の会社の面接を受けた際、希望退職なら「経営の危うい会社から、自分で離れた」と離職理由を説明できます。
ですが希望退職に応募せず整理解雇となった場合、「整理解雇の対象になるほど、期待されていなかったのか」と判断されることも。
少しでも面接の印象がよくなり、転職が有利になるはずです。
希望退職募集制度に応募するデメリット
次に、希望退職募集制度に応募するデメリットです。
[希望退職のデメリット①]すぐに転職先が見つかるとは限らない
働きながら転職をするのであれば、自分でナットクいくまで、半年でも1年でも時間をかけて転職先を探せます。
ですが「希望退職」の場合は、そこまでの時間がとれないことがほとんど。
そのためすぐに転職先が見つかるとは限りません。
会社の経営悪化のウワサが聞こえはじめたら、その時点で転職活動をはじめるのが、最も良い方法です。
[希望退職のデメリット②]転職によって収入が減ることもある
いくら退職金が割増になるといっても、時間のないなかで転職先を探すと、どうしたってあせるものです。
そのため収入が減ることになっても「まあしょうがないか」と妥協しがち。
「転職したい」と考えたら、少しずつ動いておくことが大切になります。
希望退職募集制度での離職理由:自己都合退職と会社都合退職のどちら?
退職理由には、大きくわけて「会社都合退職」と「自己都合退職」があり、下表を見ると「会社都合」のほうがメリットが多いことがわかります。
失業手当 給付制限期間 | 失業手当 給付日数 | 国民健康保険料の 軽減措置 | |
---|---|---|---|
1.自己都合退職 | 7日+3ヶ月 | 90日~150日 | なし |
2.会社都合退職 | 7日 | 90日~330日 | あり |
そして「希望退職募集制度」に応じての退職の場合は、次の項目に該当するため、「会社都合退職」である「特定受給資格者」となります。
特定受給資格者の範囲
2.「解雇」等により離職した者
(11) 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
(ハローワークインターネットサービスより)
◆「特定受給資格者の範囲やメリットを知りたい」という方には、こちらの記事がオススメです。
どんな会社が希望退職募集制度や早期退職制度を実施している?
新型コロナの影響もあり、2021年に入ってから次のような会社が、希望退職制度や早期退職制度を実施しています。
- NHK:50~56歳の職員対象に、2021年4月~2023年度末まで実施
- LIXIL:2021年1月12~22日まで募集。対象者は40歳以上かつ勤続10年以上で、1200人募集のところ、965人応募と下回った。退職日は3月25日
- リーガル:50歳以上の社員が対象で、約100人の希望退職者を募集。3月8日~19日まで受け付け、退職日は4月30日。退職金のほか特別退職金を支給し、再就職支援も行う
- カシオ計算機:早期退職制度に81人から応募があった。早期退職優遇制度により、通常の退職金に加えて特別退職金を上乗せで支給する
- オリンパス:本社と国内子会社の従業員を対象に、2月1日~19日に950人程度を募集した早期退職制度に、国内従業員の約6%に当たる844人から応募があった。通常の退職金に加え特別支援金を支給
2020年に早期退職・希望退職を実施した上場企業は93社
東京商工リサーチのデータによると、2020年に早期・希望退職を実施した上場企業は93社にものぼりました。
この数は2019年の2.6倍となっており、リーマン・ショック直後(2009年)の191社に次ぐ高水準となっています。
また2020年の早期・希望退職による募集人数は1万8635人で、やはり2009年に次ぐ高水準。
そして早期・希望退職を実施した上場企業のうち、51社が直近の本決算で赤字でした。
つまり半数以上が「赤字リストラ」を実施したことがわかります。
業種をみると、もっとも多いのは「アパレル・繊維製品」で18社。
次いで「自動車関連」と「電気機器」がそれぞれ11社、「外食」と「小売」が7社ずつとなっており、新型コロナの影響が大きい業界での実施が目立ちました。
さらに2021年は、1月下旬の時点で22社の募集が判明しています。
前年同期では11件でしたので、倍のペースで進んでおり、2021年はより早期・希望退職が進むものと予想されます。
まとめ:希望退職募集制度を利用してよい転職を
この記事では、「希望退職募集制度」の基本情報から、早期退職や退職勧奨との違い、制度に応募するメリットやデメリットなどを解説してきました。
「転職しようか、どうしようか…」と悩んでいた方には、ピッタリのタイミングです。
ぜひ記事を参考に、希望退職募集制度を利用してよい転職を目指しましょう。
◆「退職のルール全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「退職ルールまとめ」
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参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 佐々木亮・著『武器としての労働法』KADOKAWA
- 書籍 林智之・著『管理者のための労働法実務マニュアル』三修社