決まった期間のなかで働く「派遣社員」と「契約社員」。
似ているようですが、実はさまざまな違いがあります。
この記事では、かつて ”派遣会社の営業担当→法務部門→人事部門 ” ではたらいた作者が、
- 派遣社員と契約社員には、どんな違いがあるの?
- 働くなら、おすすめはどっち?
このようなギモンにお答えします。
「派遣社員」と「契約社員」、どちらで働こう…?
と迷っている方は、ぜひご覧ください。
◆「契約社員・契約社員のルール・情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「契約社員とは?無期転換ルール、雇止めも解説」
・記事「派遣社員とは?わかりやすく解説」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
派遣社員とは?契約社員とは?その定義
まずは、派遣社員と契約社員の「定義」を確認しましょう。
派遣社員とは?
派遣社員とは、「派遣会社(派遣元)が雇用し、労働者派遣として働く人」のことを指します。
そして「労働者派遣」とは、下記のような労働のカタチのこと。
それぞれの関係をわかりやすく図にすると、このとおり。
「働く場所はA社」だけれど「給料は派遣会社から出る」という、独特なカタチが「労働者派遣」です。
なお派遣社員は、労働基準法などの「労働法」のほか、「労働者派遣法」という法律によって守られます。
契約社員とは?
契約社員とは、一般的に「システムエンジニアや翻訳など、専門的な技術をもった人が、期間を決めて働く(有期契約)こと」をいいます。
ただし法律的に決まっているわけではなく、その定義は会社によってバラバラ。
なかには有期契約ではなく、「無期契約(期間の定めがないこと)だけれど契約社員」という方もいます。
正社員とはべつに、契約社員用の「就業規則(会社ごとのルール)」がある会社が多く、「退職金がでない」など特に賃金面での不平等も。
契約社員も、労働基準法などの「労働法」で守られます。
派遣社員と契約社員の違いとは?
次に、派遣社員と契約社員の「違い」をご紹介します。
[派遣社員と契約社員の違い①]雇用・労働のカタチ
次に、派遣社員と契約社員の違いをご紹介していきます。
まず、最大の違いである「雇用・労働のカタチ」です。
- 派遣社員:派遣会社(派遣元)と「労働契約」をむすぶ。派遣先とは契約をむすばないが、指示を受けて労働力を提供する(労働者派遣)
- 契約社員:働く会社と直接「労働契約」をむすぶ(直接雇用)
違い①:派遣社員の場合
前項でもお話したとおり派遣社員は、派遣会社(派遣元)と「労働契約」をむすびます。
そして、派遣先とは契約をむすばず、指示を受けて労働力を提供する「労働者派遣」という関係。
下図のように、「雇用主(派遣元)」と「働き場所(A社)」がべつになるという、独自の雇用・労働のカタチです。
違い①:契約社員の場合
契約社員は、正社員やアルバイトなどと同じで、働く会社と直接「労働契約」をむすぶ「直接雇用」です。
給料も仕事の指示も、すべて上図のA社(雇用主)から受けます。
[派遣社員と契約社員の違い②]働き場所の探し方
2つめの違いが「働き場所の探し方」です。
- 派遣社員:派遣会社(派遣元)が探してくれる
- 契約社員:自分で探す
違い②:派遣社員の場合
派遣社員の働き場所は、派遣会社(派遣元)が探してくれます。
そして派遣社員側から、ある程度「この地域で、こんな仕事で」という、希望を伝えることは可能。
ただし「あの会社がいい」という直接的なリクエストに応えられるかは、派遣会社と派遣先が「派遣契約」をむすんでいるかで決まります。
なんの契約もない会社に、いきなり派遣社員を派遣できるわけではありません。
そして「派遣先の会社が要求するレベル」に派遣社員があえば、そこで働くことができます。
なお派遣では「事前面接は禁止」されているため、「不採用だった」ということはありません(紹介予定派遣以外)。
違い②:契約社員の場合
契約社員は、働き場所はもちろん自分で探します。
そのぶん、派遣社員よりも「選べる会社の幅」は広いですが、採用されるかどうかは自分の実力次第です。
[派遣社員と契約社員の違い③]給料や仕事の相談先
3つめの違いが「給料や仕事の相談先」です。
- 派遣社員:派遣会社(派遣元)の担当営業
- 契約社員:働く会社の上司・人事担当者
違い③:派遣社員の場合
派遣社員は、給料や仕事など「働くことのすべて」については原則、派遣会社(派遣元)の担当営業に相談します。
「職場でのちょっとしたこと」なら、派遣先の上司に相談してもいいのですが、言いづらいようなことはすべて派遣会社の担当営業でOK。
担当営業が派遣先に伝えてくれるので、「働き先に直接言えないことでも相談しやすい」というメリットも。
ただしそのぶん、担当営業が「あまりできない人」だと、伝えるのを忘れたり、説得力がなく何も変わらないこともあります。
違い③:契約社員の場合
契約社員は、働く会社の上司や人事担当者に相談します。
直接担当者と話せるため、「的確に希望を伝えられる」というメリットが。
ただしその一方で、性格的に「はっきりとモノ申すことができない」という方だと、希望を伝えること自体がむずかしくなってしまいます。
[派遣社員と契約社員の違い④]出向のあり・なし
「出向」とは、「雇用関係をむすんだまま、出向契約にもとづき、社員を他社(出向先)で働かせること」です。
「コロナ禍で、旅行会社最大手のJTBが、社員をUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)に出向させた」
といったニュースもありましたね
- 派遣社員:出向はできない
- 契約社員:本人が納得すれば出向できる
違い④:派遣社員の場合
派遣社員は、出向ができません。
派遣先の会社が、派遣社員をさらに別の会社に派遣して働かせることを「二重派遣」といい、これは違法です(職業安定法第44条)。
もし「これは二重派遣かも…?」と思ったら、すぐに派遣会社(派遣元)の担当営業
違い④:契約社員の場合
契約社員は、「本人が納得」すれば出向ができます。
それだけ、派遣社員よりも契約社員のほうが「働く会社に違い存在」ともいえます。
[派遣社員と契約社員の違い⑤]働いている会社の割合
最後にご紹介する「違い」は、派遣社員と契約社員が働いている会社の割合です。
- 派遣社員が働いている会社:全体の12 .3%
- 契約社員が働いている会社:全体の11 .3%
(厚生労働省の令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査より)
違い⑤:派遣社員の場合
派遣社員が働いている会社は、契約社員よりもすこし多く全体の12 .3%です。
年代で契約社員とくらべると、下グラフのとおり。
派遣社員は増加傾向にありましたが、2020年は新型コロナの影響で減少したといわれます。
また、産業別のランキングは次のとおり。
- 1位:情報通信業(24.5%)
- 2位:運輸業・郵便業(21.6%)
- 3位:製造業(21.1%)
違い⑤:契約社員の場合
契約社員が働いている会社は、派遣社員よりもやや少なく全体の11 .3%です。
年代で派遣社員とくらべると、上グラフのとおり。
契約社員は、年々減少傾向にあります。
また、産業別のランキングは次のとおり。
- 1位:教育,学習支援業(21.9%)
- 2位:情報通信業(21.7%)
- 3位:サービス業(他に分類されないもの)(17.3%)
派遣社員と契約社員それぞれのメリットとデメリット
次に、派遣社員と契約社員をくらべたときの、それぞれのメリットとデメリットをご紹介します。
派遣社員のメリットとデメリット
メリット①:給料や職場環境の改善を担当営業がやってくれる
給料や職場環境の改善など、働くうえで何かこまったことがあれば、すべて担当営業にいえば先方に伝えてくれます。
派遣社員の方が直接伝えにくいことでも、営業がワンクッションになるため、冷静に話しをしてもらいやすくなるもの。
「時給を上げてほしい」というのも、職場の上司にはいいにくいですが、「これだけがんばっています!」と営業にはアピールしやすいものです。
メリット②:次の「働く場所」さがしを担当営業がやってくれる
これも派遣独自のメリットです。
「このあたりで、こういった仕事がしたいです」と希望を伝えておけば、担当営業がまた次を紹介してくれます。
ハローワーク・転職サイトで探して→面接受けて…、というのはけっこう体力をつかうもの。
ここをまかせてしまえるのは、とてもラクです。
メリット③:契約社員よりも、職場と適度な距離をおける
派遣社員は、契約社員よりも職場と適度な距離をおけます。
飲み会や休日のあつまりなど、社員の懇親会のようなものに、ムリして出席することはありません。
今も多くの職場の方が「派遣社員はそういうものだ」と思っていますから。
ですが「そういった集まりには出たい!」という派遣社員の方は、出てもまったく問題ありません。
よろこばれます。
「出る・出ない」を自由に選べるところがメリットですね。
デメリット①:担当営業が「デキない人」だと何も改善されない
残念ですが、派遣会社の担当営業は、全員がしっかりしているわけではありません。
ひとつの会社のなかでも、デキる人とデキない人がいます。
運悪く「デキない営業」にあたってしまった場合は、派遣会社のコーディネーターなどべつの社員に相談してみましょう。
さらに運悪く、その支店の社員全員が「デキない人」だった場合、時給が低く設定されている可能性も。
「派遣会社の対応があまり良くないな…」と思うようなら、べつの派遣会社を利用することも考えてください。
デメリット②:必ずすぐに、次の「働く場所」が見つかるわけではない
理想は「ひとつの仕事が終わったら、あいだをあけずに次の場所で働ける」ですが、なかなかうまくいかないことも。
これはいくつか理由がありますが、それぞれ対処策は下記のようになります。
- もともとその地域の会社の数がすくない → 働く地域を変えてみる
- その派遣会社が紹介できる会社がすくない → べつの派遣会社を利用する
- 担当営業が「デキない人」で前もって探していない → 働いている仕事が終了するまえに、派遣会社のコーディネーターに次の仕事の相談をする
- あなたのスキルにあった仕事がすくない → スキルアップを目指す
デメリット③:契約社員よりも賃金は低め
契約社員のメリットのところでお話しますが、全体的にみると、派遣社員は契約社員よりも賃金は低めです。
「もう少し稼ぎたい…」というときは、契約社員の仕事を探すか、スキルアップして単価の高い派遣の仕事を目指しましょう。
ちなみに派遣社員の2020年度「賃金についてのデータ」は次のとおり。
- 東京都・愛知県・大阪府
平均値は1,566円
最も多い時給額は「1,500~1,750円未満」で4割超 - 東京都・愛知県・大阪府以外の地域
平均値は1,261円
最も多い時給額は「1,000~1,250円未満」で5割超
一般社団法人 日本人材派遣協会「2020年度派遣社員WEBアンケート調査」より
契約社員のメリットとデメリット
メリット①:専門的な資格・技能をいかせる
契約社員のメリットとしてはやはり「専門的な資格・技能をいかせる」です。
厚生労働省のデータで「現在の就業形態を選んだ理由」をみると、「専門的な資格・技能を活かせるから」と答えた割合は次のとおり。
- 派遣社員:20.6%
- 契約社員:49.9%
さらに同データによれば、「現在の職場での満足度」の「仕事の内容・やりがい」で「満足」と選んだ割合は下記のようになりました。
- 派遣社員:59.6%
- 契約社員:64.8%
「専門知識をいかしたい」と働きはじめ、「仕事に満足している」ということで、「多くの人が専門知識をいかした仕事ができている」と考えられます。
メリット②:派遣社員よりも賃金は高め
契約社員は「具体的な賃金のデータ」が公表されていないため、断片的に比較してですが、派遣社員よりも賃金は高めです。
まずは「2019年9月の1か月間に支払われた賃金総額 階級別割合」をみると、下表のように、「20~40万円未満」は契約社員が多いことがわかります(厚生労働省のデータより)。
10万円未満 | 10~20万円未満 | 20~30万円未満 | 30~40万円未満 | 40~50万円未満 | 50万円以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|
派遣社員 | 7.7% | 40.9% | 30% | 9.6% | 3.9% | 2.7% |
契約社員 | 3.8% | 37.7% | 34.4% | 13.4% | 3.1% | 4.2% |
次に「現在の会社における、各種制度等の適用状況」を見ると、とくに「賞与支給制度」がある会社の割合が、契約社員では派遣社員の倍以上という多さ。
退職金制度 | 賞与支給制度 | |
---|---|---|
派遣社員 | 17.0% | 24.8% |
契約社員 | 20.1% | 45.1% |
もちろん、すべての契約社員が「ボーナスも退職金もでる!」というわけではありませんが、稼ぎたいなら契約社員をおすすめします。
◆「契約社員の退職金事情」についてくわしく知りたい方には、こちらの記事がおすすめです。
デメリット①:給料や職場環境の改善は自分でしなくてはいけない
「給料を上げてほしい」、「〇〇さんにイジワルをされるので、何とかしてほしい」こういうことも、すべて自分で上司や人事担当者に伝えなくてはなりません。
話しやすい上司ならまだいいですが、「気むずかしい人」や「事なかれ主義の人」だとキビシイですよね。
僕はコミュニケーション下手なんで、ムリだなあ…
でも派遣会社の営業時代、「派遣社員さんのため」には、ちゃんと交渉できてました
デメリット②:契約が終了したら、働き先を自分で探さなくてはならない
自分で働き先を探すのはふつうのことなんですが、やっぱり「気づかれ」するものです。
ここは「派遣社員がうらやましい…」と思うところですね。
そんなときには、「転職エージェントを利用しての転職」もおすすめします。
派遣社員と契約社員ではどっちがおすすめ?
ここまで派遣社員と契約社員の違いと、メリットデメリットをみてきましたが、結論として「どっちがおすすめ」なんでしょう。
大きく2つの方面から考えてみました。
専門知識をいかして稼ぎたいなら:契約社員がおすすめ
システムエンジニアや翻訳など、専門的な資格・技能を持っていて「稼ぎたい!」という方なら、契約社員がおすすめです。
またもやデータをご覧いただきたいのですが、下表は「情報サービス業の開発・制作部門に係る給与」の「35歳 技術者」での正社員と契約社員との比較です。
さすがに正社員と同じとはいきませんが、2019年度は463万円とかなり高額です。
スキルさえあればこのように、より稼ぐことも可能になります。
◆契約社員には「5年働けば、無期契約に転換される」というルールがあります。くわしくはこちらの記事をどうぞ。
自分の時間を優先しながら、そこそこ稼ぐなら:派遣社員がおすすめ
職場の方々との「よけいなつきあい」をかわし、自分の時間を優先したいなら派遣社員がおすすめです。
「契約社員のほうが賃金は高め」と前述しましたが、派遣社員でもスキルが必要な業務なら、高い時給になります。
そうでなくても、下グラフでわかるとおり、短時間労働者(パート・アルバイトなど)とくらべれば派遣社員の時給が高いことがわかります。
マイペースに働いて、そこそこ稼ぎたい。
派遣社員はこんな方におすすめします。
まとめ:派遣社員と契約社員の違いを知って、あなたにあった働き方を
この記事では「派遣社員と契約社員には、どんな違いがあるの?」、「働くなら、おすすめはどっち?」というギモンにお答えしました。
ぜひ記事を参考に、派遣社員と契約社員の違いを知って、あなたにあった働き方を見つけてみましょう。
◆「契約社員・契約社員のルール・情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「契約社員とは?無期転換ルール、雇止めも解説」
・記事「派遣社員とは?わかりやすく解説」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
◆「会社のトラブルや仕事の悩みはどこに相談すればいい?」という方には、こちらの記事がおすすめです。
参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 労働問題研究会・著『働く人のための法律ガイドブック』労働教育センター
- 書籍 高橋毅・監修『パート・契約社員 派遣社員の法律 実務マニュアル』三修社