新型コロナウイルスの影響により、「早期退職」を実施する企業が増えています。
ですが、実施していない会社の方だと、
「早期退職」ってどんな制度なの?
「希望退職」とは違うの?
というギモンが出るのではないでしょうか。
そこでこの記事では、早期退職について、基本知識から退職金額、希望退職との違い、メリット・デメリット、該当する離職理由などを解説していきます。
「会社が早期退職を実施しはじめた…」という方は、ぜひご覧ください。
◆「退職のルール全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「退職ルールまとめ」
早期退職とは?
早期退職とは、「管理部門のスリム化」などの目的のために、退職金を上乗せするなど好条件を提示して、一定年齢以上の社員が定年前に退職することを募集する制度です。
ただし、法律などで決まっているわけではないため、公式の定義はありません。
そのため名称もさまざまで、早期退職のほか、「早期退職募集」や「早期退職優遇制度」、「転進援助制度」、「早期定年制」などともいわれ、ほぼ同じ制度を指します。
また、早期退職を中長期間常設の制度として設置している企業も、多くあります。
この「常設制度」としての早期退職を利用した場合は、後述するとおり「離職理由」が変わりますので、注意が必要です。
早期退職での退職金の平均給付額
厚生労働省が行った「平成30年就労条件総合調査」によれば、大学・大学院卒での平均退職金給付額は、退職事由によって次のように違いました。
- 定年退職 :1,983万円
- 会社都合退職:2,156万円
- 自己都合退職:1,519万円
- 早期優遇退職:2,326万円
早期優遇退職の場合が最も給付額が高く、これはどの学歴でも変わりません。
データは下表のとおり。
早期退職と希望退職・退職勧奨の違いとは?
次に、早期退職とよく似た制度の「希望退職」、「退職勧奨」との違いを確認しましょう。
早期退職と希望退職の違いとは?
早期退職と希望退職の違いは、次のとおりです。
早期退職とは | 希望退職とは |
「企業経営が悪化していない段階」で、人事ローテーションの円滑化などのために実施する制度 | 「整理解雇の前段階」として、人員整理を目的に実施する制度 |
削減の人数目標がない | 削減の人数目標がある |
制度を常設していることが多い | 一時的な実施であることが多い |
ほとんどが自由応募型 | 面談型と自由応募型がある |
優遇退職条件が低い | 優遇退職条件が高い |
ただし上記は、あくまで一般的なもので、必ずこういった条件になっているわけではありません。
そしてどちらかといえば、希望退職のほうが「希望退職で退職するか、整理解雇されるか」となるため、社員にとっては差し迫った状況といえます。
ちなみに早期退職と希望退職のどちらも、募集人員や募集対象者、退職日などを決めて一定の期間で退職者を募る退職制度という点では同一の制度です。
そのため同一制度として集計することが多く、後述する2020年の実施状況調査は「早期退職・希望退職」の両方をまとめた調査となっています。
◆「希望退職について、よりくわしく知りたい」という方には、こちらの記事がおすすめです。
早期退職と退職勧奨の違いとは?
「退職勧奨」とは、会社が社員に対して「自主的に退職すること」を勧める行為です。
「早期退職」は「希望する社員が応募する制度」ですので、退職したくなければ、何のアクションも起こさなければいいだけ。
ですが「退職勧奨」では勧められるわけですから、何らかの返事をしなくてはなりません。
さらに「なぜ自分が選ばれたんだ…」と悩んでしまうことも。
そのため「退職勧奨」は、社員にとって影響が大きい行為といえます。
◆「退職勧奨について、よりくわしく知りたい」という方には、こちらの記事がおすすめです。
早期退職は得?応募するメリットとデメリット
ここまで「早期退職制度がどのようなものか?」を確認してきましたが、はたして応募することは得なんでしょうか?
ここでは、早期退職に応募するメリットとデメリットをご紹介します。
早期退職に応募するメリット
早期退職に応募するメリットとして、次のことがあげられます。
- 「退職金割増」などの優遇措置を受けることができる
- 早めに自由な時間を得ることができる
前述のとおり、早期退職に応じた場合が、最も退職金が高くなりました。
すでに「次にやりたいことが決まっている」方には、最適な制度といえます。
早期退職に応募するデメリット
早期退職に応募するデメリットとして、次のことがあげられます。
- すぐに転職先が見つかるとは限らない
- 転職先で給与が下がる可能性がある
早期退職の後に転職を考えている場合は、かなりじっくりと作戦を練って、時間をかけて転職先を探すことをおすすめします。
そうしないと給料が下がってしまい、結局「割増になった退職金もほとんど意味がない」ことになってしまう場合もあります。
早期退職したの離職理由は?:自己都合退職と会社都合退職のどちら?
早期退職に応募して退職した場合の「離職理由」は、実施する制度が「一時的に行われるもの」か、「常設された制度か」で変わります。
まず「一時的に行われた早期退職」だった場合は、次の項目に該当するため「会社都合退職」である「特定受給資格者」となります。
特定受給資格者の範囲
2.「解雇」等により離職した者
(11) 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
(ハローワークインターネットサービスより)
一方、「常設された早期退職制度」だった場合は、上記の( )内に該当するため、「特定受給資格者」にはならず、「自己都合退職」となります。
失業手当 給付制限期間 | 失業手当 給付日数 | 国民健康保険料の 軽減措置 | |
---|---|---|---|
1.自己都合退職 | 7日+3ヶ月 | 90日~150日 | なし |
2.会社都合退職 | 7日 | 90日~330日 | あり |
◆「特定受給資格者では、失業保険がいつもらえるのか」などを知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
公務員の早期退職募集制度とは?
「国家公務員の再就職のあっせんの禁止」などの規定に伴い、2013(平成25)年度から公務員の「早期退職募集制度」が創設されました。
「45歳以上の職員」を対象に実施し、制度を利用して退職した国家公務員の人数は、以下のとおりです。
- 令和元年度:1,642人
- 平成30年度:1,581人
- 平成29年度:1,472人
- 平成28年度:1,455人
- 平成27年度:1,528人
また、総務省が発表した「平成30年度地方公務員の退職状況等調査」によれば、平成30年度の離職者129,892人のうち、3%となる3,881人が、早期退職募集制度による退職でした。
2020年に早期退職・希望退職を実施した上場企業は93社
東京商工リサーチのデータによると、2020年に早期・希望退職を実施した上場企業は93社にものぼりました。
この数は2019年の2.6倍となっており、リーマン・ショック直後(2009年)の191社に次ぐ高水準となっています。
また2020年の早期・希望退職による募集人数は1万8635人で、やはり2009年に次ぐ高水準。
そして早期・希望退職を実施した上場企業のうち、51社が直近の本決算で赤字でした。
つまり半数以上が「赤字リストラ」を実施したことがわかります。
業種をみると、もっとも多いのは「アパレル・繊維製品」で18社。
次いで「自動車関連」と「電気機器」がそれぞれ11社、「外食」と「小売」が7社ずつとなっており、新型コロナの影響が大きい業界での実施が目立ちました。
さらに2021年は、1月下旬の時点で22社の募集が判明しています。
前年同期では11件でしたので、倍のペースで進んでおり、2021年はより早期・希望退職が進むものと予想されます。
まとめ:早期退職をよく理解し、応募するならしっかりした準備を
この記事では、早期退職について、基本知識から退職金額、希望退職との違い、メリット・デメリット、該当する離職理由などを解説してきました。
ぜひ記事を参考に、早期退職をよく理解し、もし応募するならしっかりした準備を行いましょう。
◆「退職のルール全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「退職ルールまとめ」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
◆「会社のトラブルや仕事の悩みはどこに相談すればいい?」という方には、こちらの記事がおすすめです。
参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 加茂善仁・著『Q & A労働法務実務シリーズ解雇・退職』中央経済社
- 書籍 林明文・著『よくわかる希望退職と退職勧奨の実務』同文館出版