契約社員やパートなど”有期契約”の方が、5年を超えた労働契約ののちに申し込めば”無期雇用”になれる「5年ルール」こと「無期転換制度」。
世間であまり話題にならないため、
「無期転換制度」って、どんなデメリットがあるの?無期転換を希望しないときは、どうすればいいの?
という疑問をお持ちの方も、多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、働く人向けとして、”無期転換制度”のデメリットや、希望しない場合の対応、ルールのあらまし、実態調査の結果までご紹介します。
「無期転換制度を利用しようか迷っている…」という方は、ぜひご覧ください。
◆「契約社員・派遣社員のルール・情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「契約社員とは?無期転換ルール、雇止めも解説」
・記事「派遣社員とは?わかりやすく解説」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
「5年ルール」こと無期転換制度のデメリットとは?
まずは、「5年ルール」こと無期転換制度のデメリット3点をご紹介します。
[デメリット①]正社員になれるわけではない
無期転換制度のデメリット1点目は、正社員になれるわけではないこと。
なかには、
契約社員で5年働けば、正社員になれるんでしょ?
と思っている方もいるようですが、これは誤解です。
じつは無期転換制度でなれるのは、あくまでも「無期労働契約」の状態。
・有期労働契約(期間が決められたあいだ働くこと)
↓ 無期転換
・無期労働契約(働く期間が決められていないこと)
無期転換を行った社員が「無期契約社員」や「無期転換社員」と呼ばれるのはそのため。
「契約期間がなくなるだけ」で、正社員ではないケースが多いのです。
「正社員になれると思ってガンバったのに…」ということにならないように、この記事で、無期転換制度をよく確認していきましょう。
正社員・限定正社員・無期契約社員の違い
一般的には正社員だけだった「無期労働契約」で働く人は、現在は正社員・限定正社員・無期契約社員の3種類に増えました。
それぞれの違いは次のとおり。
限定正社員は、「ジョブ型正社員」とも呼ばれます。
2007年にユニクロが「契約社員・準社員を地域限定正社員にする制度を取りいれた」ことで知られるようになりました。
また、限定正社員はさらに、次の3つにわけられます。
- 勤務地限定正社員:転勤するエリアが限定されていたり、転勤がない正社員
- 職務限定正社員:仕事の内容や範囲が、他の業務と区別され、限定されている正社員
- 勤務時間限定正社員:働く時間がフルタイムではない、または残業しなくてよい正社員
[デメリット②]給与や労働時間などの条件は変わらない
無期転換制度のデメリット2点目は、無期転換社員になっても、給与や労働時間などの条件は変わらない点。
給与が正社員なみに上がるんだろうな。
と期待する方も多いかと思いますが、「給料を上げなければいけない」などの法律上のルールはないのです。
もし会社で「無期転換社員用の就業規程」をつくっており、そこで給料が契約社員よりも高額に決められていたら、アップする可能性もあります。
ですが、そういった会社は多くないでしょう。
有期契約社員の方は、会社にそういった規程があるのか、一度確認してみるといいですね
[デメリット③]転換前よりも責任が重くなる
デメリットの3つめは、これは会社によりますが、転換前よりも責任が重くなってしまう人もいること。
転換した社員は、実質が「無期転換社員」だとしても、多くの社員からみれば「ほぼ正社員」。
そのため、契約社員には頼みづらかったことも、頼まれるようになると考えられます。
もし会社で「先に無期転換社員になった人」がいる場合には、「仕事内容などが実際にどうかわったか」を聞いてみましょう。
無期転換制度のメリットとは?
次に、無期転換制度のメリットをご紹介します。
[メリット]雇止めの心配がなくなる
無期転換制度のメリットとは、「雇止め(契約満了で更新しないこと)の心配がなくなる」ことです。
契約社員の心配ごとといえば、
次の契約終了のとき、更新されるかな…?
が多いと思います。
無期転換制度で「無期転換社員」になれば、契約期間で悩むことがなくなります。
安定した雇用を望む方には、「無期転換社員」はおすすめの制度です。
ですが前述のとおり、原則として「給料・勤務時間」などの待遇は変わりません。
そのため僕個人としては、無期転換の利用はあまりおすすめしません…
◆「雇止め」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
・記事「雇止めとは?」
無期転換ルールを希望しない場合は?放棄できる?
契約社員の方でも、なかには、
いやいや、べつに無期に転換しなくていいんですけど…
という方もいるのではないでしょうか。
東京労働局の実態調査でも、16.4%の契約社員の方が「無期転換ルールを利用したくない」と答えています。
そこでここでは、無期転換ルールを希望しない場合は放棄できるのか、確認しましょう。
会社へ「無期転換の申込み」をしなければ放棄したことになる
結論としては、”会社へ「無期転換の申込み」をしなければ、放棄したことになる”です。
これは無期転換ルールが、「5年以上働いた契約社員が会社に申し込むことで成立する」ため。
5年たったら「自動的に無期転換社員になる」わけではありません。
「自分はこのまま契約社員でいい!」というときは、5年以上働いても、会社に無期転換の申し込みをしなければOKです。
ただし、会社によっては「自動的に無期転換される制度」を設けている場合もあるそう。入社したら”契約社員用の就業規則”を確認しましょう。
契約社員・パートなど「直接雇用」の無期転換制度ルールを解説
次に、無期転換制度とはどういった制度なのか、基本ルールから厚労省の「Q&A」サイトまでご紹介します。
なお、こちらで紹介するのは、契約社員・パートなど「直接雇用」のケースです。
「間接雇用」である派遣社員では、少しルールが異なるので、別に後述しています。
[ルール①]無期転換制度とは?:基本ルール
契約社員の「無期転換ルール」とは、次のようなルールのことで、一般的に「5年ルール」とも呼ばれます。
労働契約法の改正によって、2013年4月からこの「無期転換ルール」が使えるようになりました。
そして社員が「無期転換の申し込み」をすれば、会社は「申込みを受けいれた」とみなされ、断ることができません。
申し込んだ時点での「有期労働契約」が終了した翌日から、無期に転換です。
また「5年を超えたら自動的に無期に転換」となるわけではなく、「労働者が申し込む」ことが必要な点もポイント。
無期転換ルールについては、こちら↓の厚生労働省の説明動画も参考になります。
[ルール②]対象となる人:有期労働契約の労働者
「無期転換制度」の対象となるのは、契約社員・パート・アルバイト・準社員・パートナー社員など、名称にかかわらず「有期労働契約」で働く人です(「有期契約労働者」といいます)。
「有期労働契約」とは「1年契約」や「3年契約」など、期間を決めて働くこと。
会社によっては、契約社員やパートでも「決まった契約期間がない」という場合もあり、そういった方は「無期転換制度」の対象ではありません。
(というか、すでに無期契約ですので、転換する必要がないですね)
[ルール③]対象となる会社:すべての会社
今度は会社側の対象をみていくと、「無期転換制度」の対象となるのはすべての会社です。
(細かくいうと、「有期契約労働者」を雇っているすべての会社です)
そのため、たとえ会社側が、
残念だけど、ウチは「無期転換制度」を認めてないから…
といっても、カンケーありません。すべてが対象ですので、転換できます。
また社員側が転換を申し込んだら、会社側は断ることはできません。
それでも断るようなブラック企業だったときは、記事「仕事の悩みが相談できない方へ」でご紹介している機関にご相談ください。
[ルール④]いつから発生?無期転換申込権と申込書
契約社員などが、無期労働契約への転換を申し込む権利を「無期転換申込権」といいます。
この申込権が発生するのは、次の3つをすべて満たしたときです。
下図でみると、点線でかこった期間で申込権が発生します。
注意してほしいのは、3年契約の場合で、2回めの契約がはじまった時点で、通算期間が5年を超えます(実際にはたらいた期間ではなく、契約の期間です)。
すると、2回めの3年契約がはじまった時点で、申込権は発生します。
「同一の使用者との間で契約」とは、つまり「ひとつの会社で働いている」ということ。
その会社内で「A事業所から、B事業所に異動したことがある」という場合も、「同一の使用者」と考えて大丈夫です。
なお「会社への申し込み」は口頭、つまり上司に「無期転換を申し込みます」と伝えるだけでも大丈夫です。
ただし、あとで「言った・聞いていない」というトラブルになることを防ぐためにも、書面を出すことがおすすめ。
会社に「申込書」があるか確認し、もしないようなら、厚生労働省が公開しているこちら↓の書式を使ってください。
[ルール⑤]クーリング期間
また、あるていど無契約期間があると、それより前の契約期間を「通算対象」にふくめない「クーリング期間」というルールもあります。
くわしくは、記事「契約社員のクーリング期間とは?」をご覧ください。
[ルール⑥]「転換逃れ」とは?
無期転換制度の「転換逃れ」とは、会社側が「無期転換」を避けるために、申込権が発生する前に「雇止め」などを行うことです。
ほかにも、
契約書に「無期転換はしません」と書かないと、次の契約更新は認めないよ…
このようにいって「権利の事前放棄」をさせることも許されません。
会社が、違法と思われる「転換逃れ」をしてくる場合には、記事「仕事の悩みが相談できない方へ」でご紹介している機関にご相談ください。
[ルール⑦]「有期雇用特別措置法」による特例とは?
2015年4月に施行された「有期雇用特別措置法」による特例のため、次の場合には「無期転換申込権」が発生しません。
- 専門的知識等をもつ有期雇用労働者:上限10年
- 定年後に引きつづき雇用される有期雇用労働者:定年後引きつづき雇用される期間
特例についてくわしくは、こちら↓のパンフレットをご覧ください。
厚生労働省サイトや「よくある質問(Q&A)」で制度をよく知ろう
無期転換制度についてさらにくわしく知りたい方は、厚生労働省が運営する無期転換のサイトや、「よくある質問(Q&A)」で制度をご確認ください。
派遣社員の無期転換制度ルールを解説
次に、派遣社員の無期転換制度ルールを解説します。
なお派遣社員についても、おおまかな無期転換制度ルールは、前項の「直接雇用」の場合と同様です。
ここでは、「直接雇用」の場合と異なるルールのみをご紹介します。
派遣社員の無期転換の申込みは派遣会社(派遣元)に行う
派遣社員の無期転換の申込みは、派遣会社(派遣元)に行います。
派遣先ではありませんので、注意してください。
派遣会社(派遣元)と結ぶ「労働契約の通算の契約期間」が5年を超えたときに、無期転換の申込みができます。
申し込むと、その有期労働契約が終了した翌日から、派遣会社との間で、無期の労働契約が成立です。
ただ派遣会社に登録していただけの期間は「契約期間」にカウントされない
一般的な「登録型派遣」では、あらかじめ派遣会社に登録しておき、仕事をはじめるときに派遣会社と有期労働契約を結びます。
前項で”「労働契約の通算の契約期間」が5年を超えたとき”とご紹介しましたが、ただ派遣会社に登録していただけの期間は、この「契約期間」にカウントされません。
そのため、派遣の仕事をしていない期間(登録していただけの期間)が一定以上あると、その前の有期労働契約が通算契約期間に含まれなくなる(クーリング期間)場合があります。
◆「登録型派遣」・「常用型派遣」・「クーリング期間」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
・記事「登録型派遣とは?」
・記事「常用型派遣とは?」
・記事「契約社員のクーリング期間とは?」
無期転換制度の実態調査の結果(2019年度版)
全国ではなく、「東京都内」と地域限定ですが、2019年10月に東京都産業労働局が行った「契約社員に関する実態調査」の結果が公表されています。
現時点では、ほかの公共機関から出されていない貴重な調査結果ですので、実態のポイントをまとめました。
- 会社側
①「通常の正社員区分に転換しない」が76%(p54)
②「無期転換後も労働条件はそのまま」が73%(p54)
③「契約社員がいる」は45%、「無期転換社員がいる」は16%(p66)
④男女別の割合
・契約社員:男 55%、女 45%
・無期転換社員:男 37%、女 57% - 社員側
①平均年収
・契約社員:363万円
・無期転換社員:323万円
②ひと月あたりの給料額
・契約社員:平均22.2万円
・無期転換社員:平均21.1万円
③交通費の支給
・契約社員:全額支給 83%
・無期転換社員:全額支給 74%
④ボーナスの支給があるか
・契約社員:全員に支給37%、一部に支給21%、未支給32%
・無期転換社員:全員に支給52.9%、一部に支給11%、未支給19%
⑤ボーナスの年間支給額の平均
・契約社員:31.5万円
・無期転換社員:38.5万円
⑥退職金があるか
・契約社員:あり 15%、なし78%
・無期転換社員:あり 26%、なし63%
⑦正社員とくらべたときの仕事量
・契約社員:少ない 33%、同じ 37%、多い 0.3%
・無期転換社員:少ない 29%、同じ 37%、多い 1.7%
⑧週にはたらく時間
・契約社員:平均38.5時間
・無期転換社員:平均37.3時間
⑨無期転換を利用したいか
・契約社員:したい 20%、条件によってしたい 28%、したくない 16%
(東京都内の会社ではたらく契約社員・無期転換社員410人の調査結果)
この実態調査結果では、無期転換社員のほうがボーナスの金額も高く、退職金がある方が多いわりに、給料が低いことがわかります。
また週にはたらく時間は、契約社員よりも無期転換社員のほうが少ないですが、正社員とくらべての仕事量は無期転換社員が若干多めです。
ちなみに年代は下グラフのようになっており、無期転換社員では50歳代が42%で、最も多くなっています。
◆「契約社員の退職金事情」についてくわしく知りたい方には、こちらの記事がおすすめです。
まとめ:無期転換ルールのデメリットを知ったうえで、利用するか判断しよう
この記事では、働く人向けとして、無期転換制度のデメリットや、希望しない場合の対応、ルールのあらましまでご紹介しました。
ぜひ記事を参考に、無期転換ルールのデメリットを知ったうえで、利用するか判断しましょう。
◆「契約社員・契約社員のルール・情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「契約社員とは?無期転換ルール、雇止めも解説」
・記事「派遣社員とは?わかりやすく解説」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 佐々木亮・著『武器としての労働法』KADOKAWA
- 書籍 労働問題研究会・著『働く人のための法律ガイドブック』労働教育センター