契約社員やパートではたらいている方のなかで、
社内に「正社員登用制度」の案内があったんだけど、これはどんな制度なの?
という疑問をお持ちの方はいませんか?
「正社員登用制度」を設ける会社は増えていますが、制度をくわしく理解している方は少ないかもしれません。
そこでこの記事では、正社員登用制度とはどのような制度か、制度のあらましや基準・流れ、事例、求人に応募するときの注意点などご紹介していきます。
「今は契約社員だけれど、正社員としてはたらきたい!」と思っているときは、ぜひご覧ください。
◆「契約社員のルール・情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「契約社員とは?無期転換ルール、雇止めも解説」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
契約社員・パート・アルバイトから正社員になれる「正社員登用制度とは」とは?
まずは「正社員登用制度」の基本情報をご紹介します。
「正社員登用制度」とは雇用形態が正社員に変更される制度
「正社員登用制度」とは、おなじ会社ではたらく、契約社員やパート・アルバイトなどの「非正規社員」から、正社員に雇用形態が変更される制度です。
試験などに合格した非正規社員の方について、雇用契約を正社員に切り替えます。
ちなみに読み方は「正社員登用(とうよう)制度」。
2020年1月からは、ハローワークの求人票でも、下図のように「正社員登用のあり・なし」と「過去3年の実績」が記載されるようになりました。
以前から、この制度を設けている会社もありましたが、2020年4月にはじまった「パートタイム・有期雇用労働法」の「通常の労働者への転換の推進」に対応するために、取り入れる会社がふえています。
また、制度として決めている会社もあれば、制度はなくても「慣習(以前からの社内の習慣)」として実施する会社もあります。
「正社員登用制度」に法律での決まりはありません
「正社員登用制度」は、法律などでルールが決まっていないため、方法や基準などはすべて会社しだいです。
ただし、多くの会社が「正社員登用制度」を取り入れるきっかけが、2020年4月にはじまった「パートタイム・有期雇用労働法」といわれます。
パートタイム・有期雇用労働法では、「通常の労働者への転換の推進」を下記のように定めています。
これは「義務」ですから、この①~④のどれかの対策を、すべての会社がとらなくてはいけません。
ただし「制度をつくること」が義務で、「正社員にすること」は義務じゃありません。どれだけ効果があるの?という心配はありますね…
正社員登用の基準・制度の流れ
次に、「正社員登用」の基準と、制度の流れを解説します。
正社員登用の基準・条件:面接や試験を実施する会社は少数(東京都の調査結果より)
基準日が「2016年1月」とやや古く、対象が「東京都内中小企業」と限定されているデータからの引用となりますが、正社員登用の基準・条件の「実施する会社の割合ランキング」は、下記のとおりです。
あくまで「複数回答可」の調査ですので、「本人の希望」だけで正社員登用されるわけではないことに、注意してください。
面接は26%、試験は8%と、実施する会社が意外と少ないことにおどろきました。
やはり会社側も、新卒や中途社員の入社試験があるため、ここまで対応できないのでしょうか?
正社員登用の事例紹介
次に、正社員登用の事例を2つご紹介します。
[正社員登用の事例①]三井住友海上の場合(限定正社員へ)
三井住友海上火災保険㈱では、1年更新の有期雇用の「スタッフ社員」から、無期雇用の「アソシエイト社員(専任職)」や「地域社員(総合職)」に転換できる制度を2016年に導入しました。
(厚生労働省「有期契約労働者の円滑な無期転換のためのハンドブック」より)
それぞれの社員の条件のちがいは、下表のとおり。
名 称 | 賃金 形態 | 雇用形態 | 勤務時間 | 転居を ともなう転勤 | 部門間 の異動 |
---|---|---|---|---|---|
全域社員(総合職) | 月給 | 無期労働契約 | フルタイム | あり | あり |
地域社員(総合職) | 月給 | 無期労働契約 | フルタイム | 原則なし | あり |
アソシエイト社員 (専任職) | 月給 | 無期労働契約 | フルタイム | 原則なし | 原則なし |
スタッフ社員 | 時給 | 有期労働契約 (1年契約) | フルタイム パートタイム | 原則なし | 原則なし |
「アソシエイト社員」や「地域社員」は、転勤や異動ナシの「限定社員」となります。
(「限定社員」については後述)
そしてそれぞれの登用基準は、下図のようになっています。
こちらの会社は「書類選考・筆記試験・面接」実施と、フルコースですね
また、正社員登用の流れは以下のとおりです。
[正社員登用の事例②]星野リゾート・トマムの場合(正社員へ)
旅館やホテルを、人気リゾートとして運営することで知られる「星野リゾートグループ」の㈱星野リゾート・トマム。
それまでも試行的に行っていた「アルバイトの正社員転換」を、2014年に制度として正式に就業規則にのせ、ルール化しました。
制度の流れは下図のとおり。
正社員転換に応募できるのは、契約社員やアルバイトの社員です。
選定試験として、基礎学力を確認する「筆記試験」と、自分で目標をたて立案した内容などのプレゼンテーションをおこなう「面接試験」を実施します。
面接で「プレゼン」を行うところが、全国区である星野リゾートグループらしいですね
なお、厚生労働省が運営するこちら↓のサイトでは、星野リゾート・トマムのほかにも、たくさんの事例を紹介しています。
基準や流れをさらに知りたい方は、ご覧ください。
非正規社員から正社員になるメリット
「正社員登用制度」をかんがえるうえでは、「正社員にはどんなメリットがあるのか?」について知ることも欠かせません。
ここでは、非正規社員から正社員になるメリットをご紹介します。
[正社員のメリット①]生涯年収が非正規社員の1.8倍
労働政策研究・研修機構が公表した「ユースフル労働統計 2020」によれば、正社員・非正規社員の生涯年収は次のとおりです。
・フルタイムの正社員:2億7千万円
・フルタイムの非正社員:1億5千万円
(大学・大学院卒業後フルタイムで働いた場合の 60 歳までの生涯賃金(退職金を含めない))
正社員が非正社員の1.8倍となり、生涯年収は大きく差がつくことがわかります。
[正社員のメリット②]雇用が安定している
そして、非正規社員とくらべて「雇用が安定している」というメリットが。
ほかにも次のようなメリットがあります。
- 責任ある仕事ができる
- 給与が高い
- ボーナスが支給される
- 社会的な信用度が高い
- 転職活動で有利
◆ 正社員のデメリットなど「正社員と非正規社員のちがい」については、こちらの記事でわかりやすくまとめています。
・記事「正社員と非正規社員の違いとは?」
◆会社がどうしても正社員にしてくれないときは、こちらの記事の対処法を参考にしてください。
・「契約社員から正社員にしてくれないときはどうする?」
「正社員登用制度有り」の求人に応募するときの注意点
前述のとおり、現在はハローワークの求人票でも、「正社員登用のあり・なし」と「過去3年の実績」が記載されるようになっています。
ですが、それで安心して応募してしまうと、のちのち「こんなはずでは…」ということが起こる可能性も。
そこでここでは、「正社員登用制度有り」の求人に応募する際の注意点をご紹介します。
[注意点①]必ず正社員になれるわけではない
会社に「正社員登用制度」があっても、必ず正社員になれるわけではありません。
前述したとおり、正社員登用の基準・条件として「勤務評定(60.7 %)」・「上司の推薦(43.0 %)」を必要とする会社が多くあります。
まずは、会社でしっかりはたらき、それを認めてもらわなければなりません。
また、こちらも前述のとおり、「正社員登用制度がある産業」ランキング1位は「卸売業・小売業(87 %)」ですが、「登用実績あり」は33%でランキング9位とだいぶ下。
そこで、ハローワークでの求人の場合は、「正社員登用の実績」をよく確認し、その会社でガンバってはたらくようにしましょう。
[注意点②]なれるのは「限定正社員」ということも
「正社員登用」といっても、なれるのは「限定正社員」ということもあり得ます。
この「限定正社員」とは、「地域や仕事内容を限定してはたらく正社員」のこと。
「ジョブ型正社員」ともよばれ、2007年にユニクロが「契約社員・準社員を地域限定正社員にする制度を取りいれた」ことで知られるようになりました。
また、限定正社員はさらに、次の3つにわけられます。
- 勤務地限定正社員:転勤するエリアが限定されていたり、転勤がない正社員
- 職務限定正社員:仕事の内容や範囲が、他の業務と区別され、限定されている正社員
- 勤務時間限定正社員:働く時間がフルタイムではない、または残業しなくてよい正社員
そして、労働政策研究・研修機構の調査によれば、限定正社員がいる会社の割合は28.6%(「有期契約社員を雇用している会社」だと34.0%)で、下表のような割合で限定される区分があります。
職種や職務、職域が限定されている | 勤務地が限定されている | つける役職や役割の範囲が限定されている | 労働時の長さが限定されている | その他何らかの働き方が限定されている | 多様な正社員区分 がある 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
回答した会社 (4,685社) | 17.6 % | 9.1 % | 11.1 % | 14.8 % | 3.3 % | 28.6 % |
回答した会社のうち、有期契約社員を雇用している会社(1,858社) | 19.7 % | 12.2 % | 13.5 % | 17.0 % | 5.4 % | 34.0 % |
ハローワークの求人に応募する場合には、ハローワークの職員に「これはホントの正社員か、それとも限定正社員か」を聞くようにしてください。
ちゃんとした職員さんなら、会社に電話して「どうですか?」と聞いてくれるはずです
「正社員登用制度」の実態をデータから確認
次に、「正社員登用制度」の実態をデータから確認していきます。
[データ①]「正社員登用制度」がある会社は2021年では77 %
厚生労働省の調査によれば、「正社員登用制度」がある会社は、2021年では77 %です。
- 正社員登用制度あり:77 %(うち登用実績あり:41 %、実績なし36 %)
- 正社員登用制度なし:22 %(うち登用実績あり:6 %、実績なし16 %)
また、2021年データで「正社員登用制度があるけれど、過去1年間(2020年2月~2021年1月)で登用の実績がない理由」は次のとおりです。
- 正社員を募集しなかった:33 %
- 正社員を募集した:67%
募集したうち・正社員以外の労働者から募集しなかった:6 %
・上司等からの推薦がなかった:12 %
・正社員以外の労働者から応募がなかった:40 %
一番多いのが「正社員以外の労働者から応募がなかった」というのは、よほどその会社の正社員に魅力がなかったんでしょうか、せつないですね…
[データ②]「正社員登用制度」がある産業のトップは「卸売業・小売業」「宿泊業・飲食サービス業」
前項とおなじ厚生労働省の「労働経済動向調査(令和3年2月)」をみると、「正社員登用制度」がある会社の割合が高い産業は、下記のようになっています。
また、過去1年(2020年2月~2021年1月)の「登用実績あり」の会社の割合が高い産業は次のとおり。
「制度あり」と「実績あり」ではランキングがちがっています。
転職先を「正社員登用制度」の有無で検討している方は、「実績あり」を重点的にさがしたほうがよさそうです
まとめ:「正社員登用制度」をよく理解して、正社員を目指しましょう
この記事では、正社員登用制度とはどのような制度か、制度のあらましや基準・流れ、事例、求人に応募するときの注意点などご紹介してきました。
ぜひ記事を参考に、「正社員登用制度」をよく理解して、正社員を目指しましょう。
◆「契約社員のルール・情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「契約社員とは?無期転換ルール、雇止めも解説」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
◆「会社のトラブルや仕事の悩みはどこに相談すればいい?」という方には、こちらの記事がおすすめです。
参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 小島彰・監修『パート・契約社員・派遣社員の法律問題とトラブル解決法』三修社