上司に「退職してくれないか」って言われたんだけど、これは「解雇」なの?「退職勧奨」なの?
「会社側の働きかけによって退職する」という共通点をもち、同じような制度にみえる「解雇」と「退職勧奨」。
ですが実際は大きな違いがあり、特に「退職を望まない」場合には、違いを知って対処することが大切です。
そこでこの記事では、社員側で拒否できるか、違法なケース、失業保険をもらえるタイミングなど、「解雇」と「退職勧奨」の違いを解説していきます。
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【解雇と退職勧奨の違いとは】概要
「解雇」と「退職勧奨」は、「会社側が働きかけての退職」という点では同じです。
ですがいくつもの大きな違いがあり、大まかには次のようになります。
次項から、その違いをくわしくご紹介しますが、より理解しやすいように、まずは解雇と退職勧奨がどのようなものか、カンタンに解説します。
カンタン解説:解雇とは?
「解雇」とは、社員側の意思に関係なく、会社の一方的な意思により「雇用契約」を終了させることで、次の3つの類型があります。
- 普通解雇:社員の能力・適性の不足や労働不能を原因とする解雇
- 懲戒解雇:会社の規律に違反した「懲戒処分」としての解雇
- 整理解雇:会社の倒産や縮小による「経営上の必要性」による解雇
ですが、会社の都合で自由に「解雇」されていては、社員は安定した生活をおくることができません。
そのため「解雇」は法律によって制限されており、カンタンには行なえません。
カンタン解説:退職勧奨とは?
「退職勧奨」とは、会社が社員に対して「自主的に退職すること」を勧める行為です。
あくまでも「退職をうながす」行為のため、社員側に「退職する意思」がなければ、退職勧奨に応じる必要はありません。
また、会社に許された行為のため違法性はなく、いつ実施しても問題ナシです。
ただし退職勧奨の手段・方法は、「社会通念上相当」と認められる範囲に限られ、そこを超えると「退職強要」とよばれ、違法となります。
◆「退職勧奨」についてよりくわしく知りたい方には、こちらの記事がおすすめです。
【解雇と退職勧奨の違いとは 1】社員が拒否できるか・できないか
ここからは、解雇と退職勧奨の違いを、よりくわしくご紹介していきます。
まずは、違いが最も大きい「社員側が拒否できるか・できないか」です。
解雇:社員は拒否できない
会社が解雇を行った場合、社員は拒否できません。
一方的に会社側が「雇用契約」を解消するものですから、社員側の意思に関係なく「クビ」となる。
それほど強力な行為です。
ただし、それほど強力であるために、会社はカンタンに行うことはできません。
次項で解説するとおり、さまざまな条件をクリアし、最終的な手段としてようやく実施するものです。
退職勧奨:社員は拒否できる
会社から退職勧奨を受けても、退職したくないなら社員は拒否できます。
あくまでも会社は「勧める」だけ。
何の強制力もないのです。
後述しますが、退職勧奨は法律などでの取り決めはありません。
ですから強制力もないし、その一方で会社側にすれば、制限なくいつでも行えるといえます。
【解雇と退職勧奨の違いとは 2】会社側の実施しやすさ
次にご紹介する「解雇と退職勧奨の違い」は、会社側の実施しやすさです。
解雇:会社側が実施するのはタイヘン
会社側が解雇を実施するのは、実はとてもタイヘンです。
だから会社は解雇ではなく、カンタンな退職勧奨をするともいえます
まず解雇は、労働契約法第16条で次のように規定され、正当な理由もなく行うことはできません。
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
「社会通念」とは「社会常識」のことで、「社会常識上、相当と認められるほど合理的な理由」がない解雇は、「解雇権の濫用」であり無効です。
さらに社員を解雇する場合は、30日以上前に予告をしなければならず、予告をしない場合は30日以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません(労働基準法第20条)
また以下の場合には「解雇制限」があり、社員の解雇を行えません(労働基準法第19条)。
そして次のような解雇も、各法律によって具体的に禁止されています。
このように、解雇を行うには、最も高い「労働契約法第16条」以外にもいくつものハードルがあるため、会社はカンタンに行うことができません。
退職勧奨:会社が実施するのはカンタン
退職勧奨は「法律上のルール」がないため、会社が実施するのはカンタンです。
そして「退職勧奨についての規定」が就業規則などになくても、会社はいつでも自由に行うことができます。
(何度もくり返しますが)だから効力は弱く、社員に退職の意思がなければ、受け入れる必要はありません。
【解雇と退職勧奨の違いとは 3】違法になるケース
次にご紹介するのは、解雇と退職勧奨が違法になるケースです。
解雇:客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないと無効
解雇は上述のとおり、労働契約法第16条で次のように規定され、正当な理由もなく行うことはできません。
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
そのため「勤務態度が悪い」、「たまに遅刻をする」くらいでは解雇できません。
それでも解雇すると、「解雇権の濫用」として、その解雇は無効になります。
さらに上述したとおり「解雇予告手当」を支払わなければ、労働基準法違反。
「解雇制限」の期間をムシした解雇も労働基準法違反です。
「労働者の性別を理由とする解雇」を行えば男女雇用機会均等法違反と、守るべき法律はとても多くなっています。
退職勧奨:あまりヒドいと「退職強要」で違法に
退職勧奨には、法律上のルールはありません。
ただし過去の判例によって、「手段・方法は、社会通念上相当と認められる範囲に限られる」とされています。
そしてこの範囲を超えると、「退職強要」として違法です。
具体的な判断の基準は、次のとおり。
「退職強要」になるかどうかの判断基準
・会社側の言葉づかい
・退職を迫られた回数
・退職を迫られた時間
例えば次のような事例は「行き過ぎ」として、「退職強要」と判断される可能性が高いといえます。
- 1日に何度も時間をとって、退職を勧めてくる
- 会議室に3時間も閉じ込められて、トイレにも行かせてもらえず退職を勧められる
- 何度断っても、毎日くりかえし退職を勧めてくる
- 退職勧奨を断ったら、自分の机とイスがなくなっていた
また以下のような退職勧奨は、男女雇用機会均等法などに抵触するため違法、または不法行為となります。
- 社員の結婚や妊娠を理由に退職勧奨をする
- 退職の基準に男女間で年齢格差をつける
- 退職勧奨を拒否した社員に対し、いやがらせ目的で配置転換を命じる
- 退職勧奨を拒否し続け、その後に退職した社員に対して、当初提示した「退職金の割増」などの優遇措置を与えない
◆「会社のトラブルや仕事の悩みはどこに相談すればいい?」という方には、こちらの記事がおすすめです。
【解雇と退職勧奨の違いとは 4】どちらなのか判断する方法:会社に聞く
上司から突然「退職してくれないか」といわれたとき、まずすべきなのは「解雇と退職勧奨、どちらなのか判断すること」です。
なぜなら、「解雇」なら社員側は拒否できませんが、「退職勧奨」なら拒否できるから。
では「解雇と退職勧奨のどちらなのか?」を判断する方法ですが、それはこちらです。
「え…?」と思われたかもしれませんが、実はこれしかありません。
なぜ「聞く」しかないかというと、たとえば(極端な例ですが)、
お前なんか辞めちまえ!
明日からもう、会社には来るな!
このように言われたら、「解雇」と「退職勧奨」のどちらだと思いますか?
どう考えても「退職を勧める」ようには聞こえず、「解雇」だと思えますよね。
ですがこれを、「あれは退職勧奨だった」と言ってしまう会社があるそう。
つまりは、こういうことです。
会社側の言い方やその内容だけでは、「解雇」と「退職勧奨」のどちらなのか判断できない
そのため上司から退職をうながされた場合は、どちらなのか聞く。
そして退職勧奨であって、あなたに退職する気がなければ、きっぱりと拒否しましょう。
あいまいなら「退職勧奨」と考えて行動を
ただし「解雇と退職勧奨のどちらなのか?」を聞いても、あいまいにしか答えない会社もあります。
それは「解雇だと言うと訴えられるリスクがあるので、退職勧奨の結果として社員が辞めたことにしたい」から。
あいまいにすることで、社員が「解雇」と勘違いして辞めることを期待しているんです。
そしてあとで社員が「不当解雇だ」と言ってきたら、
いやいや、あれは「退職勧奨」だよ…
と言い訳する。ヒドい話です。
そこで、会社に聞いてもあいまいで、解雇と退職勧奨のどちらなのかハッキリしない場合は、「退職勧奨」と考えて行動しましょう。
上司に「考えてくれた?」と聞かれたら、
退職する気はないので、お受けできません…
と回答しましょう。
あとは通常どおり仕事をするだけです。
ただ、僕個人としては、転職準備をはじめることをおすすめします。
次の段階として、「整理解雇」が行われる可能性もあるからです…
【解雇と退職勧奨の共通点 1】離職票での離職理由(会社都合・自己都合)
ここからは、「解雇と退職勧奨の共通点」をご紹介していきます。
まずは「離職票での離職理由(会社都合・自己都合)が何になるか?」です。
解雇・退職勧奨とも離職票の離職理由は「会社都合(特定受給資格者)」
解雇の退職勧奨のどちらも、離職票の離職理由は「会社都合(特定受給資格者)」となります。
ハローワーク公式サイトで「特定受給資格者の範囲」として紹介する、以下の項目に該当していますね。
特定受給資格者の範囲
2.「解雇」等により離職した者
(1) 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く。)により離職した者
(11) 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
(ハローワークインターネットサービスより)
ただし「解雇」では、「社員側に原因があり、懲戒解雇などになった場合」は除外されますので、注意してください。
また「特定受給資格者」には、ほかにも国民健康保険の減免措置などのメリットもあり、くわしくはこちらの記事でご紹介しています。
退職勧奨なのに、会社が離職理由を「自己都合」にしたときは?
退職勧奨を受け入れて退職したのに、離職理由が「自己都合退職」になってた!
これは厚生労働省が資料の中で紹介(46ページの最上部)しているように、よくある話のようです。
本来「会社都合退職(特定受給資格者)」となるはずが、会社に「自己都合退職」にされてしまうのは不法行為。
「退職勧奨で退職する」旨が記載された「退職届・退職願」や、「退職(勧奨)合意書」など、「退職勧奨に合意して退職した証拠となる書面」を持参してハローワークに行き、「離職理由が違う」ことを訴えましょう。
会社側の事情:解雇・退職勧奨を行うと雇入れ関係助成金が支給されない
なぜ会社が「自己都合退職」にするなんて姑息なマネをするかというと、「1人以上の社員を、会社都合で解雇・退職勧奨した場合は、雇入れ関係助成金が支給されない」ため(厚生労働省リーフレット)。
「助成金」とは、条件にあった会社が申請すれば交付されるお金で、返却する必要はありません。
「条件に合えば、申請だけでもらえる」という特徴があり、審査がある「補助金」よりも会社側には利用しやすい制度。
この「助成金」をもらいたいので、会社側は「解雇・退職勧奨」を隠します。
退職勧奨を受け入れて退職する場合は、必ず離職理由を確認しましょう。
【解雇と退職勧奨の共通点 2】失業保険(失業給付金・基本手当)をもらえるタイミング
前項でご紹介したとおり、解雇・退職勧奨のどちらも、離職票の離職理由は「会社都合(特定受給資格者)」になります。
(社員側に原因があり、懲戒解雇などになった場合は除く)
「会社都合(特定受給資格者)」の場合、「自己都合退職」のような2~3ヶ月の「給付制限」がありませんので、待期期間(7日)が終われば、失業保険(失業給付金・基本手当)が支給されます。
ただし実際にお金が振り込まれるのは、ハローワークでの求職申し込みの約1ヶ月後です。
まとめ:解雇と退職勧奨の違いを知って、会社に対抗を
この記事では、社員側で拒否できるか、違法なケース、失業保険をもらえるタイミングなど、「解雇」と「退職勧奨」の違いを解説してきました。
特に「退職を望まない」場合には、違いを知って対処することが大切です。
違法なケースもみられますので、あまりにひどい場合には、労基署など専門機関に相談しましょう。
◆「退職のルール全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「退職ルールまとめ」
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参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 全国・社労士労務対策プロジェクト・著『クレーマー時代の労務トラブル解決のコツ45』労働新聞社
- 書籍 徳住堅治・著『解雇・退職』中央経済社
- 書籍 三好眞一・著『失敗のない解雇&退職マニュアル』経営書院
- 書籍 徳住堅治・著『シリーズ働く人を守る 解雇・退職』中央経済社