退職して、雇用保険の失業保険(失業手当、基本手当)をもらおうとすると出てくるのが「特定受給資格者」と「特定理由離職者」というキーワードです。
それぞれで、支給される基本手当の額(日数)が変わるので、その範囲や違いを知ることは大切。
でも、ハローワーク公式サイトなどを見てもわかりづらいので、
結局のところ、「特定受給資格者」と「特定理由離職者」はどう違うの?
という疑問が出るかもしれません。
そこでこの記事では、特定受給資格者と特定理由離職者の違いについて、雇用保険での定義や対象者(範囲)、給付日数などから解説していきます。
「退職するので、特定受給資格者と特定理由離職者の違いを知りたい」という方は、ぜひご覧ください。
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特定受給資格者と特定理由離職者の雇用保険での定義
まずは、特定受給資格者と特定理由離職者の”雇用保険での定義”を確認しましょう。
特定受給資格者とは、倒産や普通解雇などで離職した者
特定受給資格者の、雇用保険での定義は次のとおりです。
〈雇用保険法 23条2項〉
特定理由離職者とは、次の各号のいずれかに該当する受給資格者をいう。
1号 当該基本手当の受給資格に係る離職が、その者を雇用していた事業主の事業について発生した倒産又は当該事業主の適用事業の縮小若しくは廃止に伴うものである者として厚生労働省令で定めるもの
2号 前号に定めるもののほか、解雇その他の厚生労働省令で定める理由により離職した者
さらにわかりやすくいうと、こちら。
特定理由離職者とは、雇い止めや「やむを得ない理由で自己都合退職」した者
特定理由離職者の、雇用保険での定義は次のとおりです。
〈雇用保険法 13条3項〉
特定理由離職者とは、離職した者のうち、第23条2項各号のいずれかに該当する者以外の者であつて、期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことその他のやむを得ない理由により離職したものとして厚生労働省令で定める者をいう。
さらにわかりやすくいうと、こちら。
雇用保険と失業保険(失業手当、失業給付金)について
特定受給資格者と特定理由離職者の違いを知るうえで、「雇用保険」と「失業保険」を知ることが大切ですので、ここで解説します。
雇用保険とは、次のような目的のために、労働者が失業したときなどに給付を行う、雇用に関する総合的な機能をもった制度です。
- 労働者の生活・雇用の安定を図る
- 再就職の援助を行う
雇用保険は、社員が希望して加入するものではありません。
次の条件の両方に該当すれば、正社員・パート・アルバイト・契約社員などの雇用形態に関係なく、会社側が加入させなくてはなりません。
- 条件1:31日以上引き続き雇用されることが見込まれる
- 条件2:1週間の所定労働時間が20時間以上である
失業保険とは、失業保険・失業手当・失業給付金とも呼ばれ、雇用保険に加入していた人が離職・退職後に、失業中の金銭の心配をせずに新しい仕事を探せるよう、支給されるお金のことです。
手当を受け取れる時期や期間、金額などは、次の条件によって変わります。
- 離職時の年齢
- 雇用保険に加入していた(会社で働いていた)期間
- 離職・退職の理由
特定受給資格者と特定理由離職者の違いとは?
次に、特定受給資格者と特定理由離職者の違いをご紹介します。
特定受給資格者と特定理由離職者の大まかな違い
特定受給資格者と特定理由離職者の大まかな違いは、次のとおりです。
[違い①]対象者(範囲)
まず1つめの違いは、対象者(範囲)です。
特定受給資格者の対象者(範囲)となる離職理由
特定受給資格者の対象者(範囲)となる方の離職理由は、次のとおりです。
- 「倒産」等により離職した者
- 「解雇」等により離職した者
各離職理由をくわしく見ると、以下のようになります。
①「倒産」等により離職した者の範囲
- 倒産に伴い離職した者
- 事業所において大量雇用変動の場合(1か月に30人以上の離職を予定)の届出がされたため離職した者、および当該事業主に雇用される被保険者の1/3を超える者が離職したため離職した者
- 事業所の廃止に伴い離職した者
- 事業所の移転により、通勤することが困難となったため離職した者
②「解雇」等により離職した者の範囲
- 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く)により離職した者
- 労働契約の締結に際し明示された労働条件が、事実と著しく相違したことにより離職した者
- 賃金の1/3を超える額が、支払期日までに支払われなかったことにより離職した者
- 賃金が85%未満に低下したため離職した者
- 離職の直前6か月間のうちに、次の期間で平均して、1か月で80時間を超える時間外労働が行われたため離職した者
[1]いずれか連続する3か月で45時間
[2]いずれか1か月で100時間
[3]いずれか連続する2か月以上
事業主が、危険もしくは健康障害の生ずるおそれがある旨を、行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において必要な措置を講じなかったため離職した者 - 事業主が法令に違反し、以下のことを理由に不利益な取扱いをしたため離職した者
・妊娠中・出産後の労働者、子の養育・家族の介護を行う労働者を就業させた
・それらの者の雇用の継続等を図るための制度の利用を不当に制限した
・妊娠・出産した、もしくはそれらの制度の利用の申出や利用をした - 事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため、離職した者
- 期間の定めのある労働契約の更新により、3年以上引き続き雇用されるに至った場合において、当該労働契約が更新されないために離職した者
- 期間の定めのある労働契約の締結に際し、当該労働契約が更新されることが明示された場合において、当該労働契約が更新されないために離職した者(上記8に該当する場合を除く)
- 次の理由で離職した者
・上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けた
・事業主が職場におけるセクシュアルハラスメントの事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかった
・事業主が職場における妊娠、出産、育児休業、介護休業等に関する言動により労働者の就業環境が害されている事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかった - 事業主から、直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」で離職した場合は該当しない)
- 事業所において、使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が、引き続き3か月以上となったことにより離職した者
- 事業所の業務が法令に違反したため離職した者
特定理由離職者の対象者(範囲)となる離職理由
特定理由離職者の対象者(範囲)となる方の離職理由は、次のとおりです。
- 期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者
- 正当な理由のある自己都合により離職した者り離職した者
各離職理由をくわしく見ると、以下のようになります。
①期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者の範囲
「社員側が更新を希望したにもかかわらず、更新の合意が成立しなかった」場合に限ります。
②正当な理由のある自己都合により離職した者の範囲
「正当な理由」に含まれるのは、以下の内容です。
- 体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した者
- 妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法第20条第1項の受給期間延長措置を受けた者
- 父若しくは母の死亡、疾病、負傷等のため、父若しくは母を扶養するために離職を余儀なくされた場合又は常時本人の看護を必要とする親族の疾病、負傷等のために離職を余儀なくされた場合のように、家庭の事情が急変したことにより離職した者
- 配偶者又は扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難となったことにより離職した者
- 次の理由により、通勤不可能又は困難となったことにより離職した者
(a) 結婚に伴う住所の変更
(b) 育児に伴う保育所その他これに準ずる施設の利用又は親族等への保育の依頼
(c) 事業所の通勤困難な地への移転
(d) 自己の意思に反しての住所又は居所の移転を余儀なくされたこと
(e) 鉄道、軌道、バスその他運輸機関の廃止又は運行時間の変更等
(f) 事業主の命による転勤又は出向に伴う別居の回避
(g) 配偶者の事業主の命による転勤若しくは出向又は配偶者の再就職に伴う別居の回避 - その他、上記「特定受給資格者の範囲」の2.の(11)に該当しない企業整備による人員整理等で希望退職者の募集に応じて離職した者
特定受給資格者と特定理由離職者の、各項目のよりくわしい判断基準を知りたい場合は、こちらの案内をご覧ください。
[違い②]失業保険(失業手当、失業給付金)の所定給付日数
特定受給資格者と特定理由離職者の違いの2点目は、失業保険(失業手当、失業給付金)の所定給付日数です。
基本手当の「所定給付日数」とは、「基本手当の支給を受け取ることができる日数」のこと。
「所定給付日数」が長ければ受け取る給付額が多くなり、日数が短ければ給付額が少なくなります。
特定受給資格者の失業保険(失業手当、失業給付金)の所定給付日数
特定受給資格者の基本手当の「所定給付日数」は下表のとおりです。
(ちなみに「被保険者であった期間」とは、会社で働いた期間のこと)
倒産や解雇などで「再就職の準備をする時間的な余裕がないまま離職を余儀なくされた」として、一般の離職者(自己都合退職者)よりも長い給付日数になります。
特定理由離職者の失業保険の所定給付日数:注意!離職理由によって日数が変わります
特定理由離職者の基本手当の「所定給付日数」は、その「離職理由」によって日数が変わるので注意が必要です。
上述したとおり、特定理由離職者に該当するには、次の2つの理由がありましたね。
離職理由①:「期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者」の所定給付日数
まず1つめの「期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者」については、所定給付日数が下表のようになり、これは「特定受給資格者」と同じです。
つまり、雇い止めであり「再就職の準備をする時間的な余裕がないまま離職を余儀なくされた」として、手厚くなるというわけです。
ただしこの給付日数は、離職の日が2022(令和4)年3月31日までのあいだに限定されます。
離職理由②:「正当な理由のある自己都合により離職した者」の所定給付日数
2つめの「正当な理由のある自己都合により離職した者」の所定給付日数は、下表のとおり。
ちなみにこの日数は、一般の離職者(自己都合退職者)と同じです。
[違い③]国民健康保険料(税)の軽減措置
特定受給資格者と特定理由離職者の違いの3点目は、国民健康保険料(税)の軽減措置です。
国民健康保険料(税)の軽減措置とは、倒産や解雇などの理由で離職した人を対象とした措置。
「離職の翌日~翌年度末」までの期間、前年の給与所得を30/100とみなして国民健康保険料(税)を計算することで、国民健康保険税の負担が緩和されます。
また、軽減措置を受けたい場合には、お住いの市区町村役場の国民健康保険担当課に申請することが必要です。
特定受給資格者の国民健康保険料(税)の軽減措置
特定受給資格者で国民健康保険料(税)の軽減措置を受けられるのは、下図の雇用保険受給者資格証の「12.離職理由」欄の離職コードが、次の場合です。
- 11:解雇
- 12:天災等の理由により事業の継続が不可能になったことによる解雇
- 21:雇止め(雇用期間3年以上雇止め通知あり)
- 22:雇止め(雇用期間3年未満更新明示あり)
- 31:事業主からの働きかけによる正当な理由のある自己都合退職
- 32:事業所移転等に伴う正当な理由のある自己都合退職
特定理由離職者の国民健康保険料(税)の軽減措置
特定理由離職者で国民健康保険料(税)の軽減措置を受けられるのは、上図の雇用保険受給者資格証の「12.離職理由」欄の離職コードが、次の場合です。
- 23:期間満了(雇用期間3年未満更新明示なし)
- 33:正当な理由のある自己都合退職
- 34:正当な理由のある自己都合退職(被保険者期間12ヶ月未満)
「特定受給資格者・特定理由離職者」と「会社都合退職・自己都合退職」の違い
次に、「特定受給資格者・特定理由離職者」と「会社都合退職・自己都合退職」の違いをご紹介します。
「特定受給資格者」と「特定理由離職者の離職理由1」が会社都合退職となる
「会社都合退職・自己都合退職」とは、離職理由の区分のひとつで、文字どおり「会社の都合によって退職したケース」と「自分の都合で退職したケース」を指します。
そして「特定受給資格者・特定理由離職者」と「会社都合退職・自己都合退職」の違いは、次のとおりです。
- 特定受給資格者・特定理由離職者:雇用保険上での離職理由の区分。失業保険の所定給付日数などに影響する
- 会社都合退職・自己都合退職:一般的な、広い意味での離職理由の区分
失業保険の所定給付日数から考えると、「特定受給資格者・特定理由離職者」と「会社都合退職・自己都合退職」は下表のように合致します。
特定受給資格者 | 会社都合退職 |
特定理由離職者の離職理由1 | 会社都合退職 |
特定理由離職者の離職理由2 | 自己都合退職 |
ただし、「特定理由離職者の離職理由2」でも、3ヶ月の給付制限はありません。
そのため、「特定理由離職者の離職理由2=自己都合退職」と完全一致しないことに注意してください。
特定受給資格者と特定理由離職者の共通点
ここからは、特定受給資格者と特定理由離職者の共通点をご紹介します。
[共通点①]失業保険の受給期間:離職した日の翌日から1年間
特定受給資格者・特定受給資格者の失業保険の受給期間は、原則として「離職した日の翌日から1年間」です。
「受給期間」とは、失業保険を受け取ることができる期間のこと。
この期間を過ぎると、たとえ「給付日数」が残っている場合でも、それ以上は基本手当がもらえなくなります。
その間に病気・けが・妊娠・出産・育児などの理由で、引き続き30日以上働けないときは、その日数だけ受給期間を延長できます。
ただし延長できる期間は最長で3年間。
延長を行いたい場合は、「延長後の受給期間の最後の日」までに、ハローワークに申請することが必要です。
[共通点②]失業保険の待期期間:7日間
特定受給資格者・特定理由離職者の失業保険の待期期間は、7日間です。
失業保険の「待期期間(「待機期間」ではありませんので注意!)」とは、「受給資格の決定を受けた日(求職の申込みを行った日)から、通算して7日間」のこと。
待期期間が満了するまでは、失業保険が支給されません。
[共通点③]失業保険の給付制限:なし
特定受給資格者・特定理由離職者の、失業保険の給付制限はありません(0日です)。
どちらの場合でも、前項の「待期期間」が終われば、失業保険が支給されます。
失業保険の給付制限とは、「待期期間の満了後、基本手当が支給されない一定期間」のこと。
自己都合で退職した場合は、3か月間の給付制限があります。
ただし、次のようなケースでは「給付制限」がかけられます。
- 離職理由による給付制限
重責解雇(自分の責任による重大な理由で解雇された)の場合や、2020(令和2)年10月1日の前に正当な理由なく自己都合退職した場合は、待期期間終了後、さらに3か月間給付制限される。
なお、2020(令和2)年10月1日以降に離職した場合は、正当な理由がない自己都合により退職した場合でも、5年間のうち2回までは給付制限期間が2か月となる(リーフレットより) - 紹介拒否等による給付制限
退職者が、ハローワークからの職業紹介などを正当な理由なく拒んだ場合、拒んだ日から起算して1か月間は、基本手当が支給されない
なお、特定受給資格者・特定理由離職者実際にお金が振り込まれるのは、ハローワークでの求職申し込みの約1ヶ月後です。
自分が「特定受給資格者・特定理由離職者」のどちらなのか確認する方法
記事の最後に、自分の離職理由が、特定受給資格者・特定理由離職者のどちらなのか確認する方法をご紹介します。
特定受給資格者・特定理由離職者のどちらなのか確認する方法:離職票-2を確認する
退職する際に、自分が「特定受給資格者・特定理由離職者」のどちら該当するのかを確認する方法は、離職票-2を確認することです。
離職票-2は、退職後に会社から渡される、下図の書類となります。
(正式な手順としては、退職前に会社が退職者に離職票-2を見せて、離職理由に問題がなければ⑦・⑰欄に記入)
離職票-2の右側を見ることで、会社側の記載した「離職理由」を確認することができます。
「実際の離職理由」と「会社記載の離職理由」が違っていた場合の対処方法
たとえば、実際には会社都合の「解雇」で退職したのに、離職票-2では「自己都合退職」になっていたなど。
このように実際の離職理由と、会社記載の理由がちがっていた場合は、離職票-2右側の「離職者記入欄」の、正しい離職理由の箇所に◯を記入します。
そして、実際の離職理由がわかる証拠(解雇通知の書類など)を持って、ハローワークに行きましょう。
ハローワークでは、会社と退職者の言い分がちがっていた場合、証拠などを確認して判断してくれます。
僕は会社に「自己都合退職」と書かれたんですが、「いいえ、大きく給料が下がったためです」として、給与明細をもってハローワークで説明したところ、「会社都合(特定受給資格者)」になりました。
まとめ:特定受給資格者と特定理由離職者の違いを知り、離職理由が違っていたら申請を
この記事では、特定受給資格者と特定理由離職者の違いについて、雇用保険での定義や対象者(範囲)、給付日数などから解説してきました。
特定受給資格者と特定理由離職者の違いを知って、もし会社が実際とは違う離職理由を記載した場合は、ハローワークに申請を行いましょう。
◆「退職のルール全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「退職ルールまとめ」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
◆「会社・仕事のことをどこかに相談したい」ときの相談先は、こちらの記事でご紹介しています。
・記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」
参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 労働問題研究会・著『働く人のための法律ガイドブック』労働教育センター