派遣社員としてはたらいていると、
ニュースで「派遣切り」というコトバを聞いたけど、どんなことをいうの?
と疑問をもつことはありませんか?
契約を打ち切られてしまう「派遣切り」は、派遣社員にとっては一大事で、ぜひ知ってほしいコトです。
そこでこの記事では、「派遣切り」とはどのようなものか、派遣社員がとるべき対応方法、派遣先・派遣元企業が取るべき対策までわかりやすく解説していきます。
「派遣切りにあってしまい、どうすればいいの…?」というときも、ぜひご覧ください。
◆「派遣社員についての情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「派遣社員とは?わかりやすく解説」
「派遣切り」とは?わかりやすく解説
まずは、「派遣切り」がどのようなものか、わかりやすく解説します。
「派遣切り」とは派遣先企業が派遣契約を打ち切ること
「派遣切り」とは、派遣先企業が派遣契約を打ち切ること。
次の2つのパターンがあります。
- 派遣期間の途中で、派遣契約を打ち切る
- 派遣契約が終了した時点で、契約更新を行わない
つまり、正社員や契約社員での「解雇」や「雇止め」が、派遣社員における「派遣切り」にあたります。
「派遣切り」が行われる理由と前兆
「派遣切り」は、不景気などによる業績悪化を理由に行われることが多くあります。
2008年のリーマンショックによる世界金融危機で多くの「派遣切り」が行われたことで、注目されました。
今回のコロナ禍でも「派遣切り」が心配されています。
㈱Agooraの調査によれば、派遣社員150人のうち33%が「派遣切りにあった」と答え、そのうち38%の方は「新型コロナウイルスが関係している」と回答しました。
このように”社会的な不景気”が、「派遣切り」が行われる前兆。
不景気による人員削減では、多くの会社が、はじめに非正規社員や派遣社員を減らします。
また、派遣切りが行われるのは、派遣先企業と派遣社員に「労働契約」がないことも理由のひとつと考えられます。
派遣先企業では、
正社員やパート、契約社員のように「労働契約」をむすんだ社員では、カンタンに「解雇」はできない…。でも派遣社員なら、派遣会社との「派遣契約」さえ解除すれば、カンタンに「派遣切り」ができる!
と考えるようです。
ですがじつは、そう簡単に「派遣切り」もできないのです。
くわしくは後述します。
◆「雇止め」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
・記事「雇止めとは?」
派遣先・派遣元・派遣社員の関係を確認
ここで、記事の内容がわかりやすくなるように、派遣先企業・派遣元企業・派遣社員の関係を確認しておきましょう。
3者の関係は、下図のようになります。
派遣先企業(図の「派遣先 A社」)は、派遣社員(図の「派遣労働者」)がはたらく職場。
ただし「労働契約」などはむすんでおらず、派遣社員はあくまで、派遣先企業の「指揮命令」をうけてはたらくのみという関係です。
一方の派遣元企業(図の「派遣元事業主」で、「派遣会社」とも)は、派遣先企業とは「派遣契約」を、派遣社員とは「労働契約」をむすんでいます。
そして「派遣切り」は、派遣先企業が派遣元企業に対して「まだ期間中だけど、派遣契約は打ち切りね」と、一方的に契約を解除する行為なのです。
ただ、そうであっても派遣会社は、派遣社員との「労働契約」まで解約できるわけではありません。
「派遣切り」は違法じゃないの?
次に、「派遣切り」は違法じゃないのか、確認していきましょう。
「派遣切り」には適法なケースと違法なケースがあります
「派遣切り」には、適法なケースと違法なケースがあります。
それぞれを以下でご紹介します。
①適法な(違法でない)「派遣切り」
次のようなケースは、適法な「派遣切り」です。
- 派遣先が、派遣元に対して、休業手当や解雇予告手当を支払う
- 派遣先が、「中途解除」を行った理由を派遣元明らかにしている
- 「派遣契約が解除された」としても、派遣会社が派遣社員を解雇せず、ほかの派遣先を確保する
- 派遣元が、派遣社員として3年はたらいた人に「雇用安定措置」をとる
- 派遣契約を解除された派遣元が、派遣社員に、残った期間の給料や休業手当を支払う
②違法な可能性のある「派遣切り」
次のようなケースは、違法な可能性のある「派遣切り」です。
- 派遣先が、派遣元に対して、休業手当を賠償しない
- 派遣先が、派遣元に対して、解雇予告手当を賠償しない
- 派遣先が、「中途解除」を行った理由を派遣元に聞かれても、明らかにしない
- 「派遣契約が解除されたから」という理由で、派遣会社が派遣社員を解雇する
- 派遣元が、ほかの派遣先を確保しようとしない
- 派遣元が、派遣社員として3年はたらいた人に「雇用安定措置」をとろうとしない
- 派遣契約を解除された派遣元が、派遣社員に、残った期間の給料や休業手当を支払わない
派遣社員は「派遣法」で守られており、取るべき手続きは法律で決まっています。その手続きが守られないと、違法な可能性が高いと言えます。
派遣社員が「派遣切り」されたときの対応方法
実際に「派遣切り」にあってしまったら、どうすればいいのでしょう?
ここでは、派遣社員が「派遣切り」されたときの対応方法を、2つのケースにわけてご紹介します。
ケース1:契約期間の途中で「派遣切り」になったときの対応方法
まずは、契約期間の途中で「派遣切り」になったときの対応方法です。
たとえば、契約期間は1年だったのに、「半年で終了」といわれたケース。
このとき派遣社員の方は、次の対応を行ないましょう。
派遣会社に「残った契約期間分(半年分)」について、「①給料を支払う」・「②休業手当を支払う」のどちらかを行うように請求する
くわしく解説します。
はじめに、契約期間の途中で「派遣切り」をした派遣先企業は、以下のどれかを行わなくてはなりません(労働者派遣法第29条の2・派遣先指針)。
- 子会社や関連会社などで、新しい派遣先を見つける
- 残り半年分の休業手当を支払う
- 中途解除に「やむを得ない理由」がある場合は、30日前に予告し、予告しない場合は30日分以上の損害賠償を支払う
上記2「休業手当」とは、「会社側の都合で休業するときに支払う手当で、平均賃金の6割の金額」です。
そして上記1の「新しい派遣先」がみつからないなら、派遣会社をとおして、この休業手当をうけとれます。
また前述したように、派遣先企業が派遣会社との「派遣契約」を終了させても、派遣会社と派遣社員の「労働契約」がなくなるわけではありません。
派遣会社が、派遣社員との「労働契約」を解除するためには、「解雇」をしなければなりません。
しかし「解雇」するには、「やむを得ない理由」が必要。
そのため「解雇」されることがなければ、労働契約の期間が残っているため、最初にご紹介した①か②の請求ができるというわけです。
派遣会社が応じないようなら、こちらでご紹介する「労働局」や「一般社団法人ボイス」へ相談してみてください。
・記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」
ケース2:契約満期で更新されず「派遣切り」になったときの対応方法
次に、契約満期で更新されず「派遣切り」になったときの対応方法です。
たとえば、1年の契約期間を2回更新し、てっきり次も更新されると思っていたのに、「更新されず終了」とされたケース。
このとき派遣社員の方は、次の対応を行ないましょう。
次の「雇用安定措置(労働者派遣法30条)」のいずれかを行ってもらうよう、派遣会社に要望する
① 派遣先への直接雇用の依頼
② 新たな就業機会の確保(合理的なものに限る)
③ 派遣元事業主による(派遣労働者以外としての)無期雇用
④ その他雇用の安定を図るために必要な措置(雇用を維持したままの教育訓練、紹介予定派遣など)
くわしく解説します。
まず、派遣先企業が派遣会社との「派遣契約」を更新しないことについて、規制するルールはありません。
ですが、派遣会社には、上記のような「特定有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等のための措置(雇用安定措置)」を行う必要があります(労働者派遣法30条)。
また、これは「1年以上3年未満」の派遣社員に対しては「努力義務」ですが、「3年以上」の派遣社員については「義務」です。
派遣会社ではたらいた期間が1年以上あるならば、ぜひ上記の要望を行なってみましょう。
もし、うまく次の就業機会が見つからないときは、こちらで紹介する方法を試してみてください。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
「派遣切り」において派遣先・派遣元が取るべき対策
次に、「派遣切り」において派遣先・派遣元が取るべき対策をご紹介します。
「派遣切り」において派遣先企業が取るべき対策
まずは、「派遣切り」において派遣先企業が取るべき対策をご紹介します。
1.派遣元との「派遣契約」を期間の途中で解除する場合
派遣先と派遣元の「派遣契約」を、派遣先が期間の途中で解除する場合。
このときは派遣先企業に対して、次の対応を行うよう決められています(労働者派遣法第29条の2・派遣先指針)。
2.派遣元との「派遣契約」の更新を行わない場合
そして派遣先が、「派遣契約」の「契約の更新を行わないこと」については、こちらも国ではとくに制限は設けていません。
「派遣切り」において派遣元(派遣会社)が取るべき対策
次に、「派遣切り」において派遣元(派遣会社)が取るべき対策をご紹介します。
1.派遣先が「派遣契約」を期間の途中で解除した場合
派遣先と派遣元の「派遣契約」が途中で解除されても、派遣元と派遣社員との「労働契約」は満期まで解除されません。
そして派遣元は次のような対策を取り、派遣社員の「就業機会の確保」を行わなくてはなりません。
- 派遣社員の新たな就業機会を確保する(派遣先の関連会社など)
- 1年以上派遣される見込みがあるなど一定の場合には「雇用安定措置」を講じる
- 就業機会を確保できないときは、休業や教育訓練などを行い、雇用の維持を図る
- これまでの取引先にとどまらず、新たな派遣先を確保する
- 期間満了までは賃金、または休業手当を支払う
(資料「派遣元が講ずべき措置に関する指針」)
なお、派遣元が派遣社員との「労働契約」を解除するには、解雇を行うことが必要。
解雇には「やむを得ない事由」が必要ですが、「派遣先から派遣契約を打ち切られたから」という理由は認められません。
ですから、派遣先と派遣元の「派遣契約」が解除されても、派遣元と派遣社員との「労働契約」は満期まで解除されません。
2.派遣先が「派遣契約」の更新を行わない場合
派遣先が「派遣契約」の「契約の更新を行わない」場合は、前述の「雇用安定措置(労働者派遣法30条)」を行う必要があります。
まとめ:「派遣切り」の対応方法と正しいルールを知り、違法なときは相談を
この記事では、「派遣切り」とはどのようなものか、派遣社員がとるべき対応方法、派遣先・派遣元企業が取るべき対策までわかりやすく解説してきました。
ぜひ記事を参考に、「派遣切り」の対応方法と正しいルールを知り、違法な「派遣切り」をされたときは、記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」でご紹介する「労働局」や「一般社団法人ボイス」へ相談してみてください。
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参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 佐々木亮・著『武器としての労働法』KADOKAWA