会社から内定をもらえたけど、
入社前の研修に参加したらケガをして…。これって労災になるの?
こんな目にあっている方はいませんか?
入社前の「採用内定者」ですから、判断しかねますよね。
そこでこの記事では、採用内定者の入社前研修でケガをしたら労災になるのかどうか、また労災保険の対象「労働者」の定義と「採用内定者」の性質まで確認していきます。
「今度、採用内定者向けの研修会がある」というときは、ぜひ参考にご覧ください。
◆「労災保険とその内容」をくわしく知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「労災保険とは?わかりやすく解説もわかりやすく解説」
採用内定者の入社前研修でケガをしたら労災になる?
まずは、採用内定者の入社前研修でケガをしたら、労災になるかどうかを確認しましょう。
労災になるかは研修が「労働時間にあたるか」で決まる
採用内定者の入社前研修でケガをして、それが労災になるかどうかは、その研修が採用内定者が「労働時間」にあたるかどうかで決まります。
研修が「労働時間」にあたるかは、「会社側の指揮命令下にあるか」で判断。
具体的には、以下のように「研修への参加を、会社側から義務づけられているかどうか」です。
〈労働時間の考え方〉
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。
(ウ) 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」より)
つまり会社側から「原則、参加すること」と指示のあった研修であれば、労災保険が適用される可能性が高いと言えます。
逆に、自由参加の研修であれば、「労働時間」にあたらず、労災保険の適用外となる可能性が高いです。
また「労働時間」にあたる研修の場合は、入社前であっても給料の支払いが必要です。
研修中にケガをしても会社が労災申請してくれないようなら、記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」でご紹介する”労働局”などの公的機関に相談してみてください。
そして労災申請してくれないような会社なら、内定辞退することをおすすめします…
入社前研修での怪我の労災保険申請手順
次に、採用内定者の入社前研修での怪我の、労災保険申請手順をご紹介します。
労災申請は会社ではなく本人が行う
労災申請は会社ではなく、本人が行います。
そして労災保険(療養(補償)給付)の申請方法は、次のような手順になります。
①病院で診察をうけ、治療費を支払う
②病院が請求書への証明を行う
③会社が請求書への証明を行う
④社員が労働基準監督署に、「療養の費用請求書」を提出する
⑤厚生労働省から社員に、「療養の費用」が支払われる
なお受診した病院が「労災保険指定病院」なら、上記①で治療費を支払う必要はなく、請求書は病院に提出します。
請求書などの様式と、くわしい手続き方法は、こちらで確認してください。
労災保険の対象となる「労働者」とは?
次に、労災保険の対象となる「労働者」について、くわしく確認しましょう。
労働基準法の「労働者」に該当し「労働者性」で判断する
労災保険の対象となる「労働者」とは、労災保険では定義がないため、労働基準法上の「労働者」のことを指します。
そしてこの「労働者」は、労働基準法で次のように定義されています。
労働基準法 9条(定義)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
また、具体的な事例が「労働者」に該当するかの判断基準は、前項でも出てきた「労働者性」です。
厚生労働省の資料によれば、「労働者性(労働者といえるかどうか)」は、以下の1・2を総合的にみて、個別具体的に判断するとされています。
1.使用従属性に関する判断基準
(1)指揮監督下の労働
①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
②業務遂行上の指揮監督の有無
③拘束性の有無
④代替性の有無
(2)報酬の労務対償性
2.労働者性の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
①機械、器具の負担関係
②報酬の額
(2)専属性の程度
(3)その他
ちなみに、明確に「労災保険の対象外」とされているのは、次の方たちです。
〈労災保険の対象外となる人〉
・代表権、業務執行権を有する役員
・事業主と同居している親族
・海外派遣者
「採用内定者」とは?会社とは労働契約があるの?
記事の最後に、採用内定者とはどういった性質をもち、会社と労働契約があるのかをご紹介します。
内定時に労働契約が成立するケースでは、内定取消は合理的理由がなければ無効に
「採用内定者」とは、会社からの内定通知が出ている人のことをさします。
つまりこの時点では、会社から給料が出ていないため、前項の「労働者」にはあたりません。
上記のように、業務上での強制参加で給料がでる研修に参加する、といった場合のみ「労働者」に該当します。
ただし、「採用内定者」のなかには、内定時に労働契約が成立しているケースもあります。
(ここからの内容は、上記の「労災に該当するかどうか」には関係ありません)
少々わかりづらいですが「他に労働契約を締結するための特段の意思表示が予定されていない場合」は、内定時に「始期付解約権留保付労働契約(学校を卒業したらはたらき始める契約)」が成立しているとされます。
「始期付解約権留保付労働契約」とは、次の特徴をもつ労働契約のこと
・始期:”4月1日”など「未来の雇用開始日」のこと
・解約権留保:企業と求職者のどちらも「解約権(契約を終了させられる権利)」をもつこと
具体的には次のようなケースです(厚生労働省の資料より)。
<事例1.労働契約が成立しているとされたケース>
希望する会社から採用内定通知を受けた学生が、
①ほかの会社の求人に対する応募を辞退した
②会社からの求めに応じて入社誓約書を提出した
③近況報告を行った
④会社側では採用内定通知のほかに、労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかった
このことから、「採用内定通知により両者の間に労働契約が成立した」と判断された
<事例2.労働契約が成立していないとされたケース>
会社から採用内定通知を受けたが、
①会社側は手続きは行わず、
②学生側も入社の誓約をせず、
③受け取った採用内定が正式なものではなく、企業Bから入社を翻意される可能性があることを認識していた
このことから、会社側は学生に対して確定的な採用の意思表示をしたとはいえず「採用内定通知によって労働契約は成立していない」と判断された
そして上記1で労働契約が成立していると、会社側は安易に「内定取消」ができません。
「労働契約の解除」にあたるため、「解雇」のときのように「合理的な理由」がなければ、「内定取消」も無効です。
まとめ:入社前研修でも「労働者」に該当すれば労災に!ルールを知りましょう
この記事では、採用内定者の入社前研修でケガをしたら労災になるのかどうか、また労災保険の対象「労働者」の定義と「採用内定者」の性質まで確認してきました。
採用内定者の入社前研修でも、「労働者」に該当すれば労災になります!
ぜひ記事を参考に、ルールをよく知って、損せず労災保険の給付をうけとりましょう。
◆「労災保険とその内容」をくわしく知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「労災保険とは?わかりやすく解説もわかりやすく解説」
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参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 近藤恵子・著『知らないと損する労災保険』東洋経済新報社