成果主義の会社でよく採用されているのが「年棒制」です。
こういった会社ではたらいていて、
会社が「年俸制だから残業代は出さない」っていってるけど正しいの?
こんなギモンをお持ちではないですか?
たしかに「年棒制」というと、それ以上の手当は出ないような気がしますよね。
そこでこの記事では、 働く人向けに、 年俸制では残業代が出ないのか、「残業代込み」でのケース、残業代の計算方法、会社が出さないときの対応方法もご紹介します。
「”年棒制だから出ない”と会社に言われたが、残業代を請求したい!」というときは、ぜひご覧ください。
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・記事「労働基準法とは?労働時間などのルールもわかりやすく解説」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
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年俸制では残業代が出ない?
まずは、年棒制では残業代が出ないのかどうかを確認しましょう。
年俸制でも、残業をすれば残業代は出る
結論としては、年俸制でも残業代は出ます。
労働時間が1日8時間・週40時間の「法定労働時間」を超えれば、時間外手当の支給は必須です。
なぜかといえば、残業代の支給は労働基準法37条で決められており、そのなかで「年棒制について除外する」というルールはないためです。
労働基準法 37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、33条または前条第1項の規定により労働時間を延長し、または休日に労働させた場合においては、その時間またはその日の労働については、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
同じ理由で年棒制には、37条に規定された「休日出勤代」や「深夜手当」も支給されます。
ただし、やはり月給などと同じで、年棒制の残業代支給は「労働基準法41条に規定する管理監督者など」は除外されます。
このようにほとんどの場合、月給制でも年棒制でも給与・手当の支給ルールは変わりません。
「年棒制だから…」という理由で、会社側が手当を支給しないときは、法的にどうなのかよく確認しましょう。
ただし年俸が「固定残業代制度」なら「残業代込み」時間分は残業代は出ない
ただし、年棒制でも残業代が支給されないケースもあり、それは年俸が「固定残業代制度」の場合です。
固定残業代制度とは、一定時間分の残業代・休日出勤代・深夜手当が給与にふくまれている賃金制度。
とはいえ、「時間外として○時間分を含む」と規定されている「残業代込み」の時間を超えた場合は、やはり残業代は支給されます。
固定残業代制度だからといって、いくら残業をさせても残業代が不要なわけではありません。
厚生労働省でも「固定残業代を含めた賃金表示をめぐるトラブルが多い」として、適切な表示を会社側に促しています。
雇用契約書などで、「固定残業代がふくまれているか、何時間分ふくまれているか」を確認してみましょう。
年棒制とは?残業代の計算方法
次に、年棒制とはどういった制度なのか、残業代の計算方法とあわせてご紹介します。
年棒制とは?
年棒制とは、社員の成果や業績に応じて、給料の額を1年単位で決める賃金制度です。
とくに「成果主義」を採用している会社で、よく年棒制が取り入れられています。
ただし「1年に1回、給料が支払われる」というわけではなく、年俸額を12等分して毎月支給(または16等分にして、夏と冬にボーナスとして2ヶ月分を支給する)します。
ちなみに、やや古いデータですが、平成26年(2014年)に厚生労働省が行った「就労条件総合調査結果」によれば、年棒制の会社は全体の9.5%でした。
賃金形態別企業割合(複数回答)
・月給:94.0%
・時間給:21.7%
・日給:16.2%
・年俸制:9.5%
年棒制の残業代の計算方法
年棒制の残業代の計算方法として、次の2パターンについてご紹介します。
- 年俸額を12等分して毎月支給する
- 16等分にして、夏と冬に賞与(ボーナス)として2ヶ月分を支給する
パターン1:年俸額を12等分して毎月支給する
残業代の計算方法を求めるには、まず「1時間あたりの賃金」を求めます。
両方の計算方法は次のとおり。
- 1時間あたりの賃金 = 年俸額 ÷ 12 ÷ ひと月の所定労働時間
- 残業代 = 1時間あたりの賃金 × 1.25 × 残業した時間
パターン2:16等分にして夏と冬に賞与(ボーナス)2ヶ月分を支給する
パターン2でも、基本的な計算方法はパターン1と変わりません。
ただしここで、賞与(ボーナス)も計算するときの月額賃金に含めて良いのかを考えてみましょう。
「割増賃金の基礎となる賃金」からは次のような項目を除外することになっています(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条)。
もし賞与(ボーナス)が上記6・7に該当するなら、その分を控除して計算しなくてはなりません。
と、ここまでご説明して、まわりくどくて申し訳ないのですが、結論として「16等分にして、夏と冬に賞与(ボーナス)として2ヶ月分を支給する」とした場合、賞与(ボーナス)とはみなされません。
これは、「支給額があらかじめ確定しているものは賞与(ボーナス)とはみなされない」というルールがあるため(昭和22年9月13日付け発基第17号)。
ですので、結論としては、やはりパターン1と同じ計算式で求めることになります。
「ボーナスとされる4ヶ月分の賃金もふくめて計算する点」を、まちがわないようご注意ください。
「年棒制だから残業代は出ない」といわれたときの対応方法
記事の最後に、 会社から「年棒制だから残業代は出ない」といわれたときの対応方法をご紹介します。
[対応方法①]年俸が「残業代込み」なのか確認
まずは、自分の雇用契約書や就業条件明示書などで、年俸が「残業代込み(固定残業代制度)なのか」を確認しましょう。
もし「残業代込み(固定残業代制度)」だった場合には、次の点を確認してください。
- 何時間分の残業代がふくまれているのか?
- 実際の残業時間がその時間を超えていないのか?
[対応方法②]給与の支給額が間違っていないか会社に確認
雇用契約書などを確認して「残業代込み」ではなかった場合。
または、「残業代込み」だったものの、実際の残業時間がその時間を超えている場合は、会社に給与の支給額が間違っていないか会社に確認しましょう。
働きはじめは特に、担当者の入力間違いということも起こります。
このときは念のため、上司などとのやり取りを、スマホやICレコーダーなどで録音しておきましょう。
それでも会社側が残業代を出さないなら、次項の公的機関に相談してください。
[対応方法③]会社に相談しても解決しないときは労働局へ
会社に相談しても解決しないときは、労働局へ相談しましょう。
もし上司や人事担当者とやり取りした録音があれば、証拠として持参してください。
ただ、「公的機関に相談しづらい…」というときには、記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」でご紹介する「一般社団法人ボイス」へ相談してみてください。
◆もしも、「もうこんな会社とはかかわりたくない」ということであれば、こちらの記事を参考に次の会社を探してみてください。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
まとめ:年俸制でも残業代は出ます!労働局へ相談を
この記事では、 働く人向けに、 年俸制では残業代が出ないのか、「残業代込み」でのケース、残業代の計算方法、会社が出さないときの対応方法もご紹介しました。
年俸制でも残業代は出ます!
記事でご紹介した対応方法を試して、会社が応じないなら労働局へ相談しましょう。
◆「労働基準法とその内容」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「労働基準法とは?労働時間などのルールもわかりやすく解説」
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参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 林智之・著『職場の法律トラブルと法的解決法158』三修社