転職しようとしたところ、
会社を辞めたら「退職金」が出なかった…。これって「違法」じゃないの?
こんな目にあっている方はいませんか?
勤務年数によってはかなりの大金になるため、簡単には納得できませんよね。
そこでこの記事では、退職金が出ないのは違法なのかどうか、退職金の基本ルール、支給されないときの相談先、給付額のデータなどをご紹介していきます。
「退職金のルール」をくわしく知りたい方は、ぜひご覧ください。
◆「退職のルール全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「退職ルールまとめ」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
退職金が出ないのは違法?2つのケースを確認
退職金が出ないとき、大きく分けて次の2ケースがあります。
- ケース1:会社に退職金制度自体がない
- ケース2:会社に退職金制度制度はあるけれど出ない
それぞれのケースについてまずは、退職金が出ないのは違法なのか、2つのケースを確認しましょう。
ケース1:会社に退職金制度自体がない=違法ではない
まずはケース1の、会社に退職金制度自体がない場合ですが、これは違法ではありません。
これは、労働基準法などの法律で「会社は退職金を支払いなさい」といった決まりがないため。
つまり「退職金の支払い」は、会社の義務ではないのです。
義務ではない「退職金」を会社が支給する理由:社員のモチベーションアップのため
義務じゃないなら、なぜ「退職金を出す会社」があるの?
この一番の理由は、退職金制度があることで、求職者や社員のモチベーションがアップするから。
仕事を探しているとき、仕事内容・給料が同じで「退職金があるA社」と「退職金がないB社」があれば、多くの人はB社を選びますよね。
また働く社員にとっては、長く勤務するほど退職金の金額が上がるため、「その会社で働く理由」にもなります。
だから「約8割の会社に、正社員への退職金制度がある」というわけです(データは後述)。
ケース2:会社に退職金制度制度があるけれど出ない=要注意
次にケース2の、会社に退職金制度制度があるけれど出ない場合ですが、こちらは要注意!
違法である可能性が高い場合があります。
ここからは、違法の可能性が高いケース・違法ではないケース、それぞれを見ていきましょう。
[違法の可能性が高いケース]自己都合退職では一切支給しない、規則にない減額をする
以下のようなケースは、違法の可能性が高いといえます。
退職金の支給は法律上決まっていないため、支給ルールは会社の自由。
とはいえ、合理的でなければ無効とされます(くわしくは後述)。
上記1について、これまでの裁判例では、「一切支給しないというのは認めない」とする傾向が強いようです。
上記2は、たとえば、
(辞められてハラたつから、規則にはないけど)君の退職金は2割減ね…
とするなど。
しかし退職金を減額や不支給にするには、あらかじめ退職金規程などで「減額や不支給にするケース」を決めておくことが必要です。
規程に決められていないルールを、会社都合でムリヤリ実行することは、許されません。
ただし、これらのケースは「判例上認められないことが多い」ものであり、「即、違法」というものではありません。同様のケースであっても、「どこかに申し出れば会社から支給される」ものではないことに注意です。
[違法ではないケース]雇用形態で支給・不支給をわける、「会社都合・自己都合」で金額を変える
次に、以下のようなケースは、違法ではないといえます。
上記1について、たとえば「正社員には支給するが、契約社員やパートには支給しない」という内容でも、問題はありません。
ただし「契約社員やパートでも、正社員と同じ時間で同じ仕事をしている」ときは、「同一労働同一賃金」のルールによって、退職金支給の必要がでてきます。
上記2は、後述のデータでも額がちがうことがわかります。
ですが前項のとおり「自己都合なら一切支給しない」ということは「合理的でない」ために、許されません。
退職金支給の基本ルール
次に、退職金支給の基本ルールを確認しましょう。
退職金の支払いは法律上決まっていないが、支払義務が発生するケースも
法律上決まっていないため「退職金の支給は、会社の義務ではない」と前述しましたが、次の場合には会社に「退職金の支払い義務」が発生します。
- 就業規則・退職金規程などで、「退職金の支給」を決めている場合
- 就業規則などで決めていなくとも、これまで退職金を支払ってきた慣習がある場合
規則などで決まっているのに、突然「退職金は支給しない」ということは許されません。
また規則などで明文化されていなくとも、これまで支給されてきた実績があれば、社員は「当然、自分ももらえるだろう」と期待するため、義務が発生します。
退職金の支給ルールは会社が自由に決めてよい、ただし合理的なものに
「どんな人に・いくら出すか」など退職金の支給ルールは、会社が自由に決めてよいとされています。
ただし支給ルールは、これまでの裁判例(判例)上、「合理的なもの」であることが必要。
「合理的でない」支給ルールは、無効となる可能性もあります。
退職金の支給について、よくあるのが次のようなルールです。
- 正社員には支給するけれど、契約社員やパートには支給しない
- 同じ年数はたらいても、「会社都合退職」と「自己都合退職」で金額を変える
- 懲戒解雇になった場合は、減額または不支給とする
このルールは一般的に「合理的」とされ、問題ない内容となっています。
「懲戒解雇」と退職金の減額・不支給
懲戒解雇とは、「職場の秩序を乱した社員」に対して、会社が懲戒する目的で行う解雇。
そして、懲戒解雇による「退職金の減額・不支給」は合理的と認められます。
ただし「減額・不支給」とするには、次の2点のどちらも満たすことが必要。
- 就業規則などで、「懲戒解雇となったら退職金の全部または一部を支給しない」と規定している
- 不支給とする場合は、それまでの永年の功労が無になるほどの、重大な背信行為や刑事事件に該当することを行った
特に「全額不支給」とするには、たとえば「30年勤務して3,000万円もらえるはずの退職金」をチャラにしてもいいほど、「会社の名誉を著しく汚すことをした」場合に限られます。
のちのち、裁判となりモメることがよくあるため、「全額不支給」よりも「一部減額」で対応する会社が多いようです。
もらえるべき退職金が出ないときの相談先
次に、もらえるべき退職金が出ないときの相談先を確認しましょう。
まずは労働局へ、どうしても勝ち取りたいなら弁護士へ
本来はもらえるべき退職金が出ないとき、まずは労働局に相談しましょう。
ただし「これはちょっとグレーかな…」というような、判断がむずかしいケースだと、会社への「指導」すらもできないことも。
そうすると弁護士をたよることになりますが、もちろん有料です。
「退職金がいくらでるのか」と「弁護士費用がいくらかかるのか、手間はどのくらいかかるのか」から、判断することになります。
「労働局などの公的機関」といった相談先や相談方法については、記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」でくわしくご紹介しています。
退職金が出るよう在職中にしておくこと
次に、退職金が出るよう在職中にしておくことをご紹介します。
退職金制度がある会社に入り、退職金規定を確認する
「退職金が出るようにする」ための第一歩は、「退職金制度がある会社に入る」こと。
求人票で「退職金制度:あり」の会社を選んで、転職活動を行いましょう。
同じ欄で「勤続◯年以上」もよく確認してください。
すでに会社ではたらいている方なら、「就業規則に退職金の項目があるか」、または「退職金規程があるか」を確認してください。
そして退職金規定が、「合理的かどうか」をみてみましょう。
前述したように「自己都合なら支給しない」など、合理的でないものは、無効である可能性も。い。
こんなときは、在籍中に労働局に連絡して、
退職金規程がこんな内容なんですが…
と相談してください。
そうすれば、会社に労働基準監督署からの指導が入り、あなたが退職するころには、退職金規程が改善されている可能性が高まります。
退職金が出ない会社の割合は?実態をデータから確認
記事の最後に、退職金支給の実態をデータから確認していきましょう。
[退職金データ①]退職金が出ない会社の割合は2割
2018年の調査によると、「退職金がでない(退職金制度がない)会社」は19.5%でした(厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」より)。
「退職金がでる(退職金制度がある)会社」は80.5%ですから、多くの会社で支給されている状況がわかります。
[退職金データ②]正社員の2割、契約社員・派遣社員は8割ででない
次に、就業形態べつで「現在の会社に退職金がある」と答えた人の割合は下記のとおり。
「現在の会社に退職金がある」と答えた割合
・正社員:77.7 %
・出向社員:74.8 %
・嘱託社員:19.5 %
・契約社員:20.1 %
・パート:8.0 %
・臨時労働者:10.8 %
・派遣社員:17.0 %
(厚生労働省「令和元年度 就業形態の多様化調査」より)
正社員・出向社員では、8割弱の人が退職金をもらえますが、そのほかの就業形態では、2割以下の人にしか退職金がでていない状況です。
[退職金データ③]「3年以上勤務」で支給する会社が多い
退職金制度がある会社でも、その多くでは「退職金が出るためには、最低◯年つとめること」というきまりがあります(最低勤続年数)。
そして「最低勤続年数」ごとの会社の割合は、下表のとおりです(厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」より)。
最低勤続年数 | 会社都合 | 自己都合 |
---|---|---|
1年未満 | 8.5 % | 3.2 % |
1年以上 2年未満 | 21.8 % | 15.0 % |
2年以上 3年未満 | 8.7 % | 9.7 % |
3年以上 4年未満 | 42.2 % | 56.2 % |
4年以上 5年未満 | 1.1 % | 1.6 % |
5年以上 | 9.3 % | 10.9 % |
3年以上はたらくと、退職金がもらえる会社がグッと増えていますね
[退職金データ④]自己都合退職での平均給付額は1,519万円
最後のデータは、退職金の平均給付額です。
大学・大学院卒での「勤続20年以上で45歳以上の退職者」の平均退職金給付額は、退職の理由によって次のようになりました(厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」より)。
- 定年退職 :1,983万円
- 会社都合退職:2,156万円
- 自己都合退職:1,519万円
- 早期優遇退職:2,326万円
早期優遇退職の場合が最も給付額が高く、自己都合退職が最も給付額が低い。
これは、どの学歴でも変わりませんでした。
高校卒までふくめたデータは、下表のとおりです。
まとめ:退職金が出ないときは規程などの確認を
この記事では、退職金が出ないのは違法なのかどうか、退職金の基本ルール、支給されないときの相談先、給付額のデータなどをご紹介してきました。
退職金が出ないときは、ぜひ記事を参考に、規程などを確認して「違法かどうか」を調べましょう。
ただ、退職後では調べるのがむずかしいかもしれませんので、できれば在籍中に確認することをおすすめします。
◆「退職のルール全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「退職ルールまとめ」
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参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 弁護士による退職代行サービス研究会・著『退職のプロが教えます!会社のきれいなやめ方』自由国民社
- 書籍 水谷秀雄・著『身近な労働相談』日本加除出版