せっかく就職、転職したのに、
試用期間が終わったら、会社から「本採用は見送りね」なんて言われた!そんなことってあるの!?
このように困っている方はいませんか?
「あとは本採用だけ」というときにこんなことに、ゆううつになりますよね。
そこでこの記事では、働く人向けに、試用期間後に本採用されないこともあるのか、「能力不足」で本採用が拒否されるのか、転職への影響、さらに対応方法まで解説します。
「今まさに試用期間ではたらいていて、心配…」というときは、ぜひご覧ください。
◆「試用期間のルール・情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「試用期間とは?期間の長さや本採用拒否などのルールも解説」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
試用期間後に本採用されない・見送りになることもある?
まずは、試用期間後に本採用されない・見送りになることもあるのか、本採用拒否の基本情報を確認しましょう。
12%の会社で”試用期間後に本採用されない”事例あり(ここ5年間のデータ)
試用期間後に本採用されないこともあります。
これを会社側は「本採用の見送り」や「本採用の拒否」ともよびます。
”2012年実施”と少し古いデータなのですが、労働政策研究・研修機構の「従業員の採用と退職に関する実態調査」によれば、「試用期間後に本採用しないことがある会社」の割合は次のとおりです。
試用期間後に本採用しないことがある会社:63.1%
〈内訳〉
・本採用しないことがあり、ここ5年間に事例がある会社:12.2%
・本採用しないことがあるが、ここ5年間に事例はない会社:50.9%
1割強の会社で、5年以内に「試用期間後の本採用の見送り」が行われたことがわかります。
そして、試用期間後に本採用されないときに多い判断理由の割合は以下のとおり。
〈本採用しない場合の判断理由ランキング〉
・1位:欠勤などの勤務状況(86.4%)
・2位:素行(73.7%)
・3位:仕事上の知識、能力(72.8%)
・4位:健康状態(68.3%)
ただし、(くわしくは次項でご紹介しますが)「本採用の拒否」はつまり「解雇」ですから、よほどのことがないとはできません。
たとえば、欠勤なども「3ヶ月の試用期間中に、2日休んだから」などでは認められません。
会社から本採用を拒否されたときは、その理由を確認し、適法性がないなら後述する対応方法をとりましょう。
試用期間後に本採用されない・見送りになることの適法性を確認
次に、試用期間後に本採用されない・見送りになることの適法性を確認します。
試用期間後に本採用されない・見送りになるのは「解雇」と同じ!カンタンにはできない
試用期間中であっても、会社と社員のあいだでは「労働契約(解約権留保つきの労働契約)」が結ばれています。
そのため、試用期間後に本採用されない・見送りになるのは「解雇」と同じで、カンタンにはできません。
たしかに、試用期間中は「解約権留保つきの労働契約」のため、一般的な「解雇」よりも、広い範囲で解雇の自由が認められています。
とはいえこの場合でも、次のようなケースでなければ認められません。
さらいうとこの「原因」も、無制限に許されるわけではありません。
たとえば「やる気が見られない」や「会社に向いていない」などの、抽象的な解雇理由は認められないです。
試用期間中の解雇が「認められる」のは、たとえば下記のような理由があり、さらに会社側が何度も注意・指導を行なった場合。
- 出退勤の状況がわるい
- 勤務成績がわるい
- 能力や性格が業務内容にあわない
- 上司の指示や命令にしたがわない
- 病欠が多いなど、健康状態がわるい
- 重大な「経歴のごまかし」をした
「何度も指導したが、改善がみられない」ときに、ようやく解雇が可能となります。
試用期間後の本採用拒否でも解雇予告・解雇予告手当は必要
本採用後の解雇と同様に、試用期間後の本採用拒否でも「30日以上前の解雇予告、または解雇予告手当の支払い」が必要です。
なお「解雇予告をするから、解雇の正当な理由は必要ない」というわけではありません。
「解雇予告(または手当の支払い)も、正当な理由もどちらも必要です。
ただし、試用期間中の解雇には次の特例があります。
- 試用後14日以内の解雇なら、30日前の解雇予告や解雇予告手当の支払いはいらない
このほかは、試用期間中と本採用後では、「解雇のルール」はほぼ同じと考えてOKです。
もしも会社が「解雇予告手当を支払わない」ようなら、”一般社団法人ボイス”への相談がおすすめ。
メールか電話で、専門家に無料相談できます。
試用期間の「延長」も原則は許されない
試用期間の「延長」も、原則は許されません。
これまでの裁判例にて、社員が不安定な地位である試用期間を「むやみに延ばすべきではない」とされているのです。
ただし以下の3点をすべて守っていれば「試用期間の延長が認められる場合もある」とされます。
- 「〇〇の場合には試用期間を延長することがある」と、就業規則などで規定している
- 試用期間を延長することに合理的な理由や特段の事情がある
- 延長する前に、本人に同意をとっている
試用期間の延長も、本採用拒否と同様で、カンタンにできるものではないことを理解しておきましょう。
◆「試用期間の延長」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
・記事「試用期間が延長された…違法じゃないの?」
「能力不足」は試用期間後の本採用拒否の理由になる?
次に、「能力不足」は試用期間後の本採用拒否の理由になるのかを確認します
「能力不足」だけでは本採用拒否の要件を満たさない
結論としては、「能力不足」だけでは本採用拒否の要件を満たしません。
これは前述のとおり、試用期間中の解雇(本採用拒否)が認められるのは、次のような場合とされるため。
- 「能力不足」などの理由があり、さらに会社側が何度も注意・指導を行なったが改善がみられないとき
「一度指導されたきりで、あとは教えてもらえなかった」といったケースでは、指導を行ったとは言えません。
試用期間は「会社側が社員の能力を見極める期間」ではなく、「会社側の指導能力が試される期間」と考えるといいかもしれませんね。
「試用期間満了時の本採用見送り」は転職に影響する?履歴書には書くべき?
次に、「試用期間満了時の本採用見送り」は転職に影響するのか、履歴書には書くべきなのか確認しましょう。
「試用期間満了時の本採用見送り」は転職でのデメリットになる可能性大
試用期間満了時の本採用見送りは、転職でのデメリットになる可能性大です。
元人事担当者として言わせてもらうと、やはり「すぐに辞めそうな人を避けたい」ので、短期間で退職している人は敬遠します。
よほどのスキルをもつ人なら別ですが、同スキルなら、人事担当者はやはり「勤務した期間が長い・転職回数が少ない人」を選びがち。
たとえ「会社側に問題がある本採用見送り」だったとしても、書類上ではわかりません。ですので「何か問題があったのかな?大丈夫かな?」と考えてしまいます。
ですから、試用期間満了時に本採用見送りとなったときは、何もせずに受け入れるのではなく、後述する公的機関などに相談して「適法性があるか?」を確認しましょう。
「本採用の見送り」も履歴書には書くべき!書かないと「経歴詐称」に
デメリットにはなりがちですが、とはいえ「試用期間満了時の本採用見送り」も、履歴書には書きましょう。
と思う気持ちもわかりますが、それは「経歴詐称」です。
もしそれで転職できたとしても、バレたら「解雇」される理由になります。
また退職を履歴書に書かないと、無職の期間が不自然に空いてしまうため、面接で、
この期間は、何をされていたんですか?
と聞かれることに。
ここで不自然なウソをつくと、もし入社できたとしても、ずっとウソをつきつづけなくてはなりません。
それならば、「試用期間中に退職した理由」をよく考え、そのうえで雇ってくれる会社を探していきましょう。
転職エージェントの利用がおすすめ
「試用期間満了時の本採用見送り」があってから、転職先が見つからない…。面接でもどう説明すればいいんだろう?
というときは、転職エージェントの利用がおすすめ。
通常の転職だと、はじめに履歴書・職務経歴書などでの書類審査があります。
「試用期間満了時の本採用見送り」となった人は、書類審査で落とされてしまうことが多いかと思います。
転職エージェントを利用すれば、エージェントから「試用期間満了時の本採用見送りとなった事情」を、しっかり会社に説明してもらえます。
ほかにも「面接でどう説明すれば印象が良くなるか」など、いろいろと教えてもらえますよ。
「なかなか転職がうまくいかない」というときは、ぜひ一度転職エージェントを利用してみましょう。
おすすめは”DODAエージェントサービス”です。
◆「転職エージェントの探し方とおすすめエージェント」は、こちらの記事でご紹介しています。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
「試用期間後の本採用見送り」での離職理由は「会社都合」になる
「試用期間満了時の本採用見送り」となった場合は、つまり「解雇」として次の項目に該当するため「特定受給資格者」であり「会社都合退職」になります。
特定受給資格者の範囲
2.「解雇」等により離職した者
(1) 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く。)により離職した者
(ハローワークインターネットサービスより)
ただし「社員側に重大な責任がある解雇」の場合は「自己都合退職」扱いです。
ちなみに「自己都合退職」と「会社都合退職」では、下表のように違いがあります。
失業手当 給付制限期間 | 失業手当 給付日数 | 国民健康保険料の 軽減措置 | |
---|---|---|---|
1.自己都合退職 | 7日+3ヶ月 | 90日~150日 | なし |
2.会社都合退職 | 7日 | 90日~330日 | あり |
試用期間満了時に本採用見送りになったときの対応方法
次に、試用期間後に本採用されないときの対応方法をご紹介します。
[対応方法①]まずは会社に本採用見送りの理由を確認:「解雇理由証明書」の請求
まずは会社に、「本採用見送り」の理由を確認しましょう。
前述のとおり「本採用見送り」とは「解雇」にあたりますので、「解雇理由証明書」を請求して発行してもらいます。
これは労働基準法22条2項で決められているもので、会社側は拒否できません。
この書面に記載された理由が、上述のような「客観的合理性」がない、または事実でないときは不当解雇です。
会社側が「解雇理由証明書」を発行してくれず、話し合いで済ませようとしたときは、スマホやICレコーダーなどで録音して証拠にしてください。
証明書を発行しない時点で、その会社は「ブラック企業」です。
一人でなんとかしようと思わず、公的機関を頼りましょう。
[対応方法②]本採用見送りの理由に納得できなければ労働局へ
試用期間の本採用見送りの理由に納得できなければ、労働局へ相談しましょう。
このときは「解雇理由証明書」や、録音したものを証拠として持参してください。
ただ、「公的機関に相談しづらい…」というときには、記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」でご紹介する「一般社団法人ボイス」へ相談してみてください。
もしも、「もうこんな会社とはかかわりたくない」ということであれば、記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」を参考に、次の会社を探しましょう。
試用期間の法律上の基本ルールを確認
記事の最後に、試用期間の基本ルールを確認していきましょう。
[試用期間の基本ルール①]試用期間とは
「試用期間」とは、法律的な定義はありませんが、一般的に次のような期間のことをいいます。
試用期間とは、社員をはじめから正式採用とせず、3ヶ月などの期間を限定して、その期間中に「社員としての適正」を確認する「試験的な採用期間」のこと
なお、「試用期間」はどの法律でもルールが決められていないため、これまでの裁判例(判例)によってルール化されています。
[試用期間の基本ルール②]正社員と非正規社員でルールは同じ
正社員と非正規社員(契約社員・パート・アルバイト・派遣社員など)では、「試用期間のルール」は変わりません。
これは試用期間中であっても、会社と社員の関係は「労働契約(解約権留保つきの労働契約)」であり、「本採用後の労働契約と同一」とされているため。
この「労働契約」の最低基準のルールを決めた法律が「労働基準法」で、その対象は「労働者」です。
「労働者」には、正社員・非正規社員すべてがふくまれるため、「試用期間のルールも同じ」となります。
[試用期間の基本ルール③]試用期間の長さ
「試用期間の長さ」もやはり、労働基準法などの法律では決まっていません。
ただし判例によれば、あまり長い期間では公序良俗違反として「無効」となります。
実際のデータでは「3ヶ月」という会社がもっとも多く、次が「6ヶ月」となっています。
1ヶ月程度 | 2ヶ月程度 | 3ヶ月程度 | 4ヶ月程度 | 5ヶ月程度 | 6ヶ月程度 | 7ヶ月~1年 程度 | 1年超 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
新卒採用の場合 | 4.7% | 8.4% | 66.1% | 0.9% | 0.2% | 18.3% | 1.4% | 0.1% |
中途採用の場合 | 6.2% | 8.3% | 65.7% | 0.7% | 0.1% | 16.5% | 2.1% | 0.3% |
(労働政策研究・研修機構「従業員の採用と退職に関する実態調査」より)
[試用期間の基本ルール③]試用期間中の身分
試用期間中の社員の身分は、「解約権留保つきの労働契約」となります。
「解約権留保つきの労働契約」」とは、
「試用期間中に会社から”不適格”と判断されると、本採用にはならない」という、条件つきの労働契約
試用期間ののち「本採用」となった場合にようやく、何の条件もつかない「労働契約」に切り替わります。
つまり、試用期間が終了するまでは、「条件つきの社員」ということですね
そのため会社が「試用期間中の社員用」として、給料や福利厚生などのルールを、本採用された社員とは別につくることも許されています。
試用期間中のみ、本採用後とくらべ「給料の額が低い」、「月給制ではなく時給制」ということも問題なしです。
しかし、「試用期間中の社員」も上述したように「労働者」ですので労働基準法が適用されます。
最低賃金を下回ることは許されませんし、残業や休日出勤をしたら割増賃金を支払うことが必要です。
また試用期間中でも、雇用保険・社会保険には加入しなければなりません。
もし会社が、
試用期間中は、会社の社会保険に入れないから、国民健康保険でお願いね…
というのは違法です。記事「仕事の悩みが相談できない方へ」で紹介している機関にご相談ください。
[試用期間の基本ルール④]導入する会社は8割以上
少し古いデータですが、2014年に労働政策研究・研修機構が調査した結果によれば、8割以上の会社で「試用期間」があることがわかりました。
採用した社員への試用期間がある会社:86.9%
採用した社員への試用期間がない会社:12.1%
(労働政策研究・研修機構「従業員の採用と退職に関する実態調査」より)
まとめ:”試用期間後に本採用されない”ことはあるが、カンタンにはできない!
この記事では、働く人向けに、試用期間後に本採用されないこともあるのか、「能力不足」で本採用が拒否されるのか、転職への影響、さらに対応方法まで解説しました。
試用期間後に本採用されないこともありますが、カンタンにできるものではありません!
労働局にアドバイスしてもらい、しっかり対応していきましょう。
◆「試用期間のルール・情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「試用期間とは?期間の長さや本採用拒否などのルールも解説」
◆「会社のことをどこかに相談したい」ときの相談先は、こちらの記事でご紹介しています。
・記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 林智之・著『職場の法律トラブルと法的解決法158』三修社