通勤中に転ぶなどでケガをして、
会社への通勤中にケガをしたら、医者から「通勤災害ですね」っていわれたんだけど、どういうものなの?
こんなギモンをもった方はいませんか?
会社ではたらいていても、労災保険を使う機会はあまりなく、「通勤災害」についてよく知らない方も多いかと思います。
そこでこの記事では、労災保険の「通勤災害」の基本情報、労災に認定される・されない基準とその事例までご紹介します。
「通勤中に事故を起こして、労災になるのか知りたい」というときは、ぜひご覧ください。
◆「労災保険とその内容」をくわしく知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「労災保険とは?わかりやすく解説もわかりやすく解説」
労災保険の「通勤災害」とは?
まずは、労災保険の「通勤災害」の基本知識を確認しましょう。
労災保険の「通勤災害」とは?
労災保険の「通勤災害」とは、社員の通勤によるケガや病気、障害、死亡をいいます。
ケガや病気が「通勤災害」と認められると、労災保険のさまざまな給付を受けられます。
(認定される基準は後述しています)
ちなみに「通勤災害」では健康保険が使えず、労災保険で病院にかかることになります。
もし健康保険を使ってしまったときは、この記事を参考に労災保険に切り替えてください。
労災保険の「通勤災害」と「業務災害」の違いは?
労災保険の給付の対象には、前項でご紹介した「通勤災害」のほかに「業務災害」があります。
〈労災保険の給付の対象〉
1.通勤災害:社員の通勤によるケガや病気、障害、死亡
2.業務災害:社員の業務上のケガや病気、障害、死亡
「通勤災害」と「業務災害」の違いとしては、上記のように「いつ負ったものか」という点のほか、次のようなものがあります。
違い | 通勤災害 | 業務災害 |
---|---|---|
①会社側の災害補償責任 | なし | あり |
②保険給付の名称 | 「補償」が入らない | 「補償」が入る |
③解雇制限 | なし | あり |
④「待期期間」中の会社による休業補償 | なし | あり |
「業務災害」は会社側に災害補償責任があるため、「通勤災害」よりも補償が手厚いといえます。
後述する「緊急呼び出し」など、「通勤災害」かと思いきや「業務災害」というケースもありますので、要件をよく確認しましょう。
労災保険の「通勤災害」と認定される・されない基準とその事例
次に、労災保険の「通勤災害」と認定される・されない基準とその事例をご紹介します。
なお、「通勤災害」と認定するのは、会社ではなく労働基準監督署です。
もし会社が労災と認定してくれないなら、記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」でご紹介する労働基準監督署や労働局に相談してみてください。
労災保険の「通勤災害」と認定される基準
労災保険の「通勤災害」と認定される基準は、次のとおりです。
そして「通勤」 の要件は、労災保険法 7第2項と3項に規定されており、わかりやすくいえば以下のようになります。
- 「通勤」とは、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路と方法で往復すること
- 合理的な経路を逸脱したり、通勤と無関係な行為で通勤を中断した場合は、原則として「通勤」にはあたらない
まずポイント1の「住居と就業の場所との間」として、現在は下図の3パターンが認められています。
「複数就業者」とは、複数の会社ではたらく人のこと。
また単身赴任先の住まいと、帰省先の住まいとの移動も対象で、これは平成18年(2006年)の法改正で追加されています。
そして「合理的な経路と方法」とは、「一般的・社会的に考えて合理的」なものとされ、例えば次のようなものがあります。
- 「合理的な経路」の例
1.乗車定期券に表示され、あるいは事業所に届出している経路(バス、鉄道等)
2.タクシーなどの利用で、通常の経路が複数あるいずれかの場合
3.道路工事など当日の交通事情により迂回する経路
4.マイカー通勤者が貸切の車庫を経由する経路
5.労働者(共働きを含む)以外、子どもを監護する者がいない場合に、託児所や親戚などに預けるための場所を経由する経路 - 「合理的な方法」の例
1.公共交通機関を利用する
2.自動車や自転車等を本来の方法に従って利用する
3.徒歩
ポイント2の「中断」や「逸脱」については、下図のようになります。
通勤中に、「中断(通勤と関係ない行為を行うこと)」や「逸脱(仕事や通勤に関係なく経路から逸れること)」があると、その後の移動は「通勤」とみなされず、したがって「通勤災害」にもなりません(上図の上側)。
ただし、以下の行為のための最小限度の場合については、「中断」や「逸脱」から戻れば「通勤」となります(上図の下側)。
- ア)日用品の購入その他これに準ずる行為
- イ)職業訓練やそれに準ずる教育訓練を受講する行為
- ウ)選挙権を行使する行為
- エ)病院、診療所で診察又は治療を受ける行為
- オ)要介護状態にある一定の範囲内の家族の介護に関する行為
労災保険の「通勤災害」と認定される事例
労災保険の「通勤災害」と認定される事例はこちら↓です。
認定事例①:地震などの天災で会社近くのホテルに泊まり、そこから会社へ通勤する際の事故
こういったケースでは、ホテルが「住居」となります。
そのため、ホテルから会社に向むかう移動は「通勤」です。
認定事例②:通勤ラッシュを避けるため早く家を出て会社へ向かう際の事故
就業時間と、ある程度の時間的な隔たりがあった場合でも、それが長時間(就業との直接的な関連性を失わせるほど)にわたらない場合は、「通勤」と認められます。
認定事例③:会社の取引先で商談を行い、家に直帰する途中での事故
「就業の場所」とは、業務を開始し、または終了する場所のこと。
そのためこのケースでは、取引先が「就業の場所」となり、そこから直帰する場合は「通勤」となります。
認定事例④:道路工事で交通規制をしていたため迂回した際の事故
理由もなく遠回りするようなケースでは認められませんが、道路工事による交通規制のため迂回する場合などは「合理的な経路」となります。
労災保険の「通勤災害」と認定されない基準
労災保険の「通勤災害」と認定されない基準は、前項の「認定基準」を満たさない場合と業務にあたる場合で次のとおりです。
「通勤」の要件がひとつでも満たされていないと、「通勤災害」には認定されません。
また「通勤」の要件を満たしていても、上記2のように「業務の性質を有する」ケースについては、後述するように「通勤災害」ではなく「業務災害」になります。
労災保険の「通勤災害」と認定されない事例
労災保険の「通勤災害」と認定されない事例はこちらです。
認定されない事例①:朝、会社に向かうときにアパートの自室で起こった事故
ここで確認するのは「住居と就業の場所との間」の、「住居」の境界がどこになるかです。
境界がなければ、家のなかで起こったケガまで「通勤災害」になってしまい、それではおかしいですよね。
この境界の判断基準は「一般の人が自由に出入りできる場所かどうか」です。
アパートなどの集合住宅では「ドア」となり、ドアを出たところから「通勤」と判断されます。
今回のケースでは自室のなかで起こっているため、「通勤」とならず、「通勤災害」には該当しません。
ちなみに一戸建てなどの個人住宅の場合は、その家の「門戸」が境界とされます。
認定されない事例②:終業後に会社で3時間ほど同僚と雑談し、その後帰宅時の事故
このケースは「就業に関し」の判断です。
終業後すぐに帰宅すれば、「業務を終えたから退社」といえ、就業に関したものと判断されます。
ですが雑談してからの帰宅では、「おしゃべりを終えたから退社」といえ、業務からは離れているとも考えられます。
とはいえ、帰りがけに片付けや着替えをしながら雑談することもあるはず。
「すぐに帰らないと”通勤”とは認めない」では、会社の人間関係がギクシャクしてしまいます。
そこで国による通達で「終業後2時間以内まで」なら原則OKだとされました。
(特殊な事情があれば、2時間を超えても大丈夫)
今回は3時間ですから、さすがに認められません。
認定されない事例③:同僚の送別会に行った帰りの事故
同僚の送別会は業務に関連あるようにも思えますが、「中断」や「逸脱」から戻るときの例外となる前述ア)~オ)のどれにもあてはまりません。
そのため、たとえ送別会からの帰り道が、通常の会社からの帰り道だったとしても、「通勤」ではないと判断されます。
緊急の呼び出しなら「通勤災害」ではなく「業務災害」に
通勤途中であっても、次のような場合には「業務の性質を有するもの」とされ、「通勤災害」ではなく「業務災害」になります。
〈業務の性質を有するもの〉
・会社側が提供する専用交通機関を利用する出退
・緊急用務のため休日に呼出しを受けて緊急出動する場合
「業務災害」のほうが補償が手厚くなりますので、まちがわずに申請しましょう。
◆くわしくはこちらの記事で解説しています。
まとめ:通勤災害の基準を知って、正しい労災申請を
この記事では、労災保険の「通勤災害」の基本情報、労災に認定される・されない基準とその事例までご紹介しました。
ぜひ記事を参考に、通勤災害の基準を知って、正しい労災申請を行いましょう。
◆「労災保険とその内容」をくわしく知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「労災保険とは?わかりやすく解説もわかりやすく解説」
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参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 近藤恵子・著『知らないと損する労災保険』東洋経済新報社