パートさんを雇うとき、「試用期間」を設けている会社があります。
そういった会社ではたらいて、
パートの試用期間中に解雇された…違法じゃないの?
このような悩みをお持ちの方はいせんか?
多くの会社で設定されますが、「14日以内ならカンタンに不採用にできる!」など、会社側にも誤解が多い制度が「試用期間」です。
そこでこの記事では、働く人に向けて、パートの試用期間中に解雇されることは違法なのか、そしてパートの試用期間のルールについて解説します。
「パートで試用期間中だけど、解雇されないか不安…」というときは、ぜひご覧ください。
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・記事「パート社員とは?残業代、雇止めなどのルールも解説」
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パートの試用期間中に解雇された…違法じゃないの?
まずは、パートの試用期間中に解雇されるのは違法じゃないのか、確認しましょう。
適正な解雇理由・通知があれば試用期間中の解雇でも違法ではない
結論からいえば、「パートの試用期間中に解雇される」ことは、違法ではありません。
ただしこれは、あくまでも「適正な解雇理由があり、適正な通知をした」うえでのこと。
「試用期間」というコトバのイメージから、
どうせ、簡単にクビにされちゃうんでしょ…
と思う方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。
じつは「試用期間」にも「試用期間中の解雇」にも、さまざまなルールがあるんです。
そしてルールにしたがっていなければ「違法」です。
次項ではパートの「試用期間中の解雇」について、法律上のルールをご紹介します。
パートの「試用期間中の解雇」について法律上のルールを確認
次に、パートの「試用期間中の解雇」について法律上のルールをご紹介します。
[試用期間中の解雇のルール①]パートも正社員もルールは同じ
パートも正社員も「試用期間中の解雇のルール」は同じです。
もちろん「試用期間のルール」も変わりません。
これは試用期間中であっても、会社と社員の関係は「労働契約(解約権留保つきの労働契約 ※くわしくは後述)」であり、「本採用後の労働契約と同一」とされているため。
労働契約の内容の”最低基準を決めた法律”が「労働基準法」で、その対象は正社員やパートなどすべての「労働者」ですので、ルールも共通になるのです。
[試用期間中の解雇のルール②]解雇には「正当な解雇理由」と「解雇予告」が必要
試用期間中の解雇であっても、本採用後と同じで「正当な解雇理由」と「解雇予告」が必要です。
それは前項でご紹介したとおり、試用期間中でも会社と社員は「労働契約」の関係にあるため。
つまり本採用後と解雇のルールも変わらず、次の2点が必要です。
ただし上記1について、試用期間では本採用後の社員の解雇よりも、「正当な理由の範囲」が広く認められます。
試用期間中の解雇が認められるケース
試用期間中の解雇が認められるのは、次のようなケースです。
採用するときには知ることができなかった事実が「試用期間中」に判明し、そのまま雇用することが適当でないとする「客観的合理性」が認められるような場合
→ カンタンにいうと、”採用時にわかっていれば採用しなかった事実”がわかった場合
とはいえ無制限に許されるわけではなく、「やる気が見られない」や「会社に向いていない」という抽象的な解雇理由も認められません。
「認められる」のは、たとえば下記のような解雇理由です。
- 出退勤の状況がわるい
- 勤務成績がわるい
- 能力や性格が業務内容にあわない
- 上司の指示や命令にしたがわない
- 病欠が多いなど、健康状態がわるい
- 重大な「経歴のごまかし」をした
ただしこういった場合、会社は注意・指導を行なうことが必要。
注意・指導を行ない、改善がみられない場合にのみ、解雇を検討できるとされています。
[試用期間中の解雇のルール③]ただし試用後14日以内なら解雇通知・解雇予告手当は不要
前項で「解雇予告が必要」とご紹介しましたが、次の点は本採用後の解雇とは大きく違います。
試用期間がはじまってから14日以内の解雇であれば、30日前の解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要(労働基準法21条)
とはいえ、試用期間で14日以内の場合でも、前項でご紹介した「解雇をする正当な理由」は必要。
正当な理由もなく、「14日以内だから」と解雇することはできません。
なお、日数の「14日」は、出勤日ではなく「暦日」でカウントします。
そのため、土日や祝日もふくめて、日数をカウントしてください。
[試用期間中の解雇のルール④]「能力不足」だからと簡単には解雇できない
試用期間の結果、あなたは「能力不足」だからクビね…
このように、試用期間中で「能力不足」だからといって、簡単には解雇できません。
「解雇のルール②」でご紹介したとおり、たしかに下記の理由なら解雇が認められます。
- 出退勤の状況がわるい
- 勤務成績がわるい
- 能力や性格が業務内容にあわない
- 上司の指示や命令にしたがわない
- 病欠が多いなど、健康状態がわるい
- 重大な「経歴のごまかし」をした
ただし、会社は社員に対して、注意・指導を行なうことが必要。
注意・指導を行ない、改善がみられない場合にのみ、解雇を検討できるとされています。
ですから、会社側が何の指導もせずに「能力不足」というのは、「正当な解雇理由」にはなりません。
「上司や同僚が何度も指導して、それでも改善されない」ときに、はじめて「正当な解雇理由」となります。
[試用期間中の解雇のルール⑤]試用期間満了後の本採用拒絶も「解雇」にあたる
試用期間が満了となりましたが、今回は本採用を見送りということで…
こう言われるとごまかされそうですが、このような”試用期間満了後の本採用拒絶”も「解雇」にあたります。
ですから、解雇する「正当な理由」と、14日以上経っていれば「解雇予告」が必要です。
もしも会社がここまでのルールを守らないなら、”一般社団法人ボイス”への相談してみましょう。
メールか電話で、専門家に無料相談できます。
また転職時には、書類作成から面接、内定までを無料でサポートしてくれる転職エージェントを利用すれば、転職での失敗が減ります。
おすすめは”DODAエージェントサービス”です。
パートの試用期間中に解雇されたときの対応方法
次に、 パートの試用期間中に解雇されたときの対応方法をご紹介します。
もし、「もうこんな会社とは関わりたくない…」というときは、こちらで次の会社を探してみてください。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
[対応方法①]会社に「解雇理由証明書」を請求して「解雇の理由」を確認する
まずは、会社に「解雇理由証明書」を請求して、「解雇の理由」を確認しましょう。
「解雇理由証明書」とは次のような書類で(決まった書式はありません)、会社は社員から請求されたら、遅滞なく交付しなくてはなりません。
会社が「解雇理由証明書」を発行しない場合は、「30万円以下の罰金」という罰則があります。
なお書類の項目は、以下のなかから「社員側が希望したものだけ」を記載するので、「全項目記載」で会社に請求すればOKです。
- 使用期間
- 業務の種類
- 当該事業における地位
- 賃金
- 退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)
[対応方法②]書類をもってハローワークや労働局に相談する
次に、「解雇理由証明書」をもって、最寄りのハローワークや労働局に相談しに行きましょう。
もし「解雇予告手当」が支給されていないなら、どのように会社に請求すればいいか確認してみてください。
なお、「公的機関には相談しづらい…」というときには、記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」でご紹介する「一般社団法人ボイス」へ相談してみてください。
試用期間の基本ルールを確認
記事の最後に、試用期間の基本ルールを確認していきましょう。
[基本ルール①]試用期間とは?
「試用期間」とは、法律的な定義はありませんが、一般的に次のような期間のことをいいます。
試用期間とは、社員をはじめから正式採用とせず、3ヶ月などの期間を限定して、その期間中に「社員としての適正」を確認する「試験的な採用期間」のこと
労働基準法に「平均賃金を算出するときは除外する(12条)」、「14日以内なら解雇予告手当は不要(21条)」として出てきますが、「試用期間」としては法的なルールは一切決められていません。
そのため、これまでの裁判例(判例)によってルール化されています。
[基本ルール②]試用期間中の社員の身分
試用期間中の社員の身分は、「解約権留保つきの労働契約」となります。
「解約権留保つきの労働契約」」とは、
「試用期間中に会社から”不適格”と判断されると、本採用にはならない」という、条件つきの労働契約
試用期間ののち「本採用」となった場合にようやく、何の条件もつかない「労働契約」に切り替わります。
つまり、試用期間が終了するまでは、「条件つきの社員」ということですね
そのため会社が「試用期間中の社員用」として、給料や福利厚生などのルールを、本採用された社員とは別につくることも許されています。
試用期間中のみ、本採用後とくらべ「給料の額が低い」、「月給制ではなく時給制」ということも問題なし。
とはいえ、「試用期間中の社員」も前項でご紹介したように「労働者」ですので、労働基準法が適用されます。
最低賃金を下回ることは許されませんし、残業や休日出勤をしたら割増賃金を支払うことが必要です。
[基本ルール③]試用期間中の労働保険・社会保険
試用期間中でも、労働保険(雇用保険、労災保険)・社会保険(健康保険、厚生年金、介護保険)の要件を満たすなら、加入しなければなりません。
もし会社が、
試用期間中は、会社の社会保険に入れないから、国民健康保険でお願いね…
というのは違法です。記事「仕事の悩みが相談できない方へ」で紹介している機関にご相談ください。
[基本ルール④]試用期間の長さと延長・更新
試用期間の長さは、労働基準法などの法律では決まっていません。
ですが試用期間中は、社員の地位が不安定。
そのため判例によれば、あまり長い期間では「無効」とされます。
具体的に「○ヶ月以内!」といった決まりはありませんが、実際のデータをみると下表のとおり、3ヶ月と6ヶ月の会社が8割以上となっています。
(少し古いですが、2014年に労働政策研究・研修機構が調査したデータです)
1ヶ月程度 | 2ヶ月程度 | 3ヶ月程度 | 4ヶ月程度 | 5ヶ月程度 | 6ヶ月程度 | 7ヶ月~1年 程度 | 1年超 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
新卒採用の場合 | 4.7% | 8.4% | 66.1% | 0.9% | 0.2% | 18.3% | 1.4% | 0.1% |
中途採用の場合 | 6.2% | 8.3% | 65.7% | 0.7% | 0.1% | 16.5% | 2.1% | 0.3% |
(労働政策研究・研修機構「従業員の採用と退職に関する実態調査」より)
また試用期間の延長や更新は、原則できません。
ただし次のどちらも満たす場合には、延長・更新も可能です。
- 会社の就業規則などに、「試用期間を延長する場合がある」などのルールがある
- 会社が「合理的な理由」を示し、社員側がそれに同意した
たとえば、
キミは試用期間中に、ケガで休んだ期間が長かったので、あと1ヶ月延長してもいいかな?
そうですね。わかりました
これならOKです。
ただし、なんの説明もなく、
あと3ヶ月、試用期間を延長するね
といわれた場合は、
理由をおしえてください!
と、会社に確認しましょう。
もし会社が応じないようなら、記事「仕事の悩みが相談できない方へ」で紹介している機関にご相談ください。
[基本ルール⑤]試用期間中の給料の支払い
試用期間中でも、もちろん給料は支払われます。
また試用期間中は、本採用後の時給よりも低くすることが認められています。
そして試用期間中は、会社が労働局に申請して許可がでれば、最低賃金の20%まで時給を減らすことも可能です(最低賃金法7条3号、最低賃金法施行規則第5条)。
ただしこの労働局への申請は「ほとんど出されたことがない」と、聞いたことがあります。
もし会社が、
試用期間中だから、時給は500円ね…
などと言ってきたら、とりあえず労働局に確認しましょう。
また「試用期間中」でも、時間外労働があった場合は、割増残業代が支払われます。
[基本ルール⑥]会社は求人票などに「試用期間の有無・期間」の明示が必要
会社がハローワークへの求人申し込み、求人広告の掲載を行う場合、求人票や募集要項には「労働条件」を明示することが必要です(職業安定法第5条の3)。
そして「労働条件」には「試用期間の有無と期間」もふくまれます。
また試用期間中の給料などが、本採用後とちがうときは、それも記載しなくてはなりません。
求人票になんの記載もないのに、
じゃあ半年は試用期間ね…
ということがあったら、記事「仕事の悩みが相談できない方へ」で紹介している機関へ。
[基本ルール⑦]試用期間がある会社は8割以上
少し古いデータですが、2014年に労働政策研究・研修機構が調査した結果によれば、8割以上の会社で「試用期間」があることがわかりました。
採用した社員への試用期間がある会社:86.9%
採用した社員への試用期間がない会社:12.1%
(労働政策研究・研修機構「従業員の採用と退職に関する実態調査」より)
まとめ:パートの試用期間中に解雇された…適正なやり方だったか確認しましょう
この記事では、働く人に向けて、パートの試用期間中に解雇されることは違法なのか、そしてパートの試用期間のルールについて解説しました。
もし「パートの試用期間中に解雇された…」というときは、記事を参考に、会社のやり方が適正だったかどうか確認してみてください。
そして適正でないなら、記事「会社・仕事の悩みの相談先を紹介」でご紹介する「労働局」や「一般社団法人ボイス」へ相談してみましょう。
◆「パート社員のルール・情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「パート社員とは?残業代、雇止めなどのルールも解説」
◆「試用期間のルール・情報全般」を知りたい方には、こちらの記事もオススメです。
・記事「試用期間とは?期間の長さや本採用拒否などのルールも解説」
◆次の会社を探したいときには、こちらの記事が参考になります。
・記事「失敗しない転職先の探し方・見つけ方!」
・記事「派遣社員になりたいとき」
参考文献
この記事では、下記の書籍を参考にさせて頂いております。
- 書籍 布施直春・著『Q&A 退職・解雇・雇止めの実務』労働調査会
- 書籍 小島彰・監修『管理者のための労働法の基本と実務』三修社